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自転車嬢の危難(コナン・ドイル)のあらすじ・登場人物

荒野の道を追う自転車

  • ミステリ
  • 翻訳

コナン・ドイル 訳者 三上於菟吉 1929年(昭和4年)10月

文字数
23,325字
読了目安
約47分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

1895年の春、ロンドン郊外の屋敷で住みこみの音楽教師をしている若い女性が、駅へ向かう寂しい道で、自転車に乗った黒い髭の男に毎週あとをつけられると訴えに来る。原題は「The Solitary Cyclist」で、1903年12月にアメリカの『コリアーズ』、翌1904年1月にイギリスの『ストランド・マガジン』に発表され、短編集『シャーロック・ホームズの帰還』に収められた。サリー州ファーナム近郊の荒野と古い屋敷を舞台に、ワトソンの単独の張りこみや、ホームズが村の酒場で拳闘の腕を振るう場面など、軽快な場面が続く。三上於菟吉の訳で、平凡社「世界探偵小説全集」の一冊(1929年)に収められた。

あらすじ

音楽教師ヴァイオレット・スミスは、父を亡くして母と貧しく暮らしていたところへ、アフリカで死んだ叔父ラルフの友人だというカラザースとウードレーが現れ、カラザースの屋敷で娘に音楽を教える職を得る。ウードレーは粗暴な男で、彼女に言い寄って追い出された。そのころから、土曜ごとに駅へ向かう彼女のあとを、自転車の男が一定の距離を保ってつけてくるようになる。ワトソンは現地で張りこむが要領を得ず、ホームズは村の酒場で聞きこみをして、近くのチャーリントン屋敷を借りた元牧師ウィリアムソンのもとにウードレーが出入りしていることをつかみ、そのウードレーと殴り合いになる。やがてヴァイオレットはカラザースから求婚されて断り、屋敷を去ることにする。最後の土曜日、ホームズとワトソンが駆けつけると、彼女を乗せていたはずの馬車が空で走ってきた。自転車の男は変装したカラザース本人で、彼女の身を案じてひそかに見守っていたのだった。屋敷の庭では、ウィリアムソンがヴァイオレットとウードレーの結婚式を無理やり挙げ終えたところで、カラザースはウードレーを撃つ。ホームズの解説によれば、カラザースとウードレーは南アフリカで、彼女の叔父が遺言なしに死にかけていることを知り、一人が彼女と結婚して遺産を分け合う計画を立てて帰国したのだった。だがカラザースは本気で彼女を愛してしまい、仲違いしたウードレーが強硬手段に出たのである。強制された結婚は無効とされ、ヴァイオレットは遺産を相続して婚約者のモートンと結ばれた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 一八九五年の私の記録を開いてみると、私たちが初めて、ヴァイオレット・スミス嬢を知ったのは、四月二十三日土曜日と記されてある。私はこれを見て思い出すが、彼の女の来訪をシャーロック・ホームズは、ひどく歓迎しなかった。と云うのは当時はホームズは、煙草成金として有名な、ジョン・ヴィセント・ハーデンに関する、とても錯綜した難かしい、脅迫事件に没頭していたのであった。私の友人は、何よりもまず事物の正確と、思考の集中を愛するだけに、また、自分のやりかけている事に、横道から闖入されることも、ひどく嫌うのであった。ヴァイオレット・スミス嬢は、その夜おそく、ベーカー街にやって来たのであったが、この美しい背の高い、物腰の上品な、若い婦人に突然に来訪されて、その話を持ち出されて、懇ろに依頼されても、ホームズはその持前の柄にもなく、意外に不愛想であった。しかし彼はもう今は手一ぱいで、何も引き受ける余裕は無いと云うようなことを云っても、結局その美しい訪客にとっては、何の効果もなかった。もうどんなことがあっても、一通りの事情を話して、いやでも応でも、ホームズの助力を得ようと、その婦人は死に物狂いの決心をきめて来たので、引きずり出しでもすればともかく、さもなければ、もうとても追い返すことなどは出来そうも無い容子であった。それでとうとうホームズも根負けがしてしまって、はなはだ気の進まないような微笑を漏らしながら、とにかく一応その話をきこうと云うことで、その美しい訪客を椅子に招じたのであった。 「とにかくお嬢さん、あなたはそんなに自転車に熱中しては、身体のためによくありませんよ」  ホームズは、例の鋭い視線を、その美しい訪客に一渡り投げかけた後に云った。

「自転車嬢の危難」コナン・ドイル(青空文庫)

末尾部(原文より)

 しかしこの事件のことを記した稿本の末尾には、ちょっとした追記があって、ヴァイオレット・スミス嬢は、たしかに大きな財産を相続し、そして現在は、あの有名なウェスミンスター電業者の集りである、モートン・エンド・ケネデー協会の、高級会員である、シリル・モートンの妻になっていると記されてある。それからウィリアムソンとウードレーは、誘拐罪と殴打罪で、前者は七年の懲役、後者は同じく十年に処された。カラザースのことについては、私は別に記録してはいないが、しかし、ウードレーがもっぱら兇悪漢と云う定評で通っていたから、彼のやったことは法廷では、そう重大視はされなかったろうと確信する。たぶん数ヶ月の懲役と云うところが、適当な求刑であったろう。

「自転車嬢の危難」コナン・ドイル(青空文庫)

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