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アッシャー家の崩壊(ポー)のあらすじ・登場人物

崩れゆく館と兄妹

  • 怪奇
  • 幻想
  • 翻訳

ポー 訳者 佐々木直次郎 1931年(昭和6年) 「書き下ろし」

文字数
19,900字
読了目安
約40分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

エドガー・アラン・ポーが1839年に発表したゴシック幻想の名編「The Fall of the House of Usher」を、佐々木直次郎が訳した一編(第一書房『エドガア・アラン・ポオ小説全集』所収)。旧友ロデリック・アッシャーの病を案じ、陰鬱な沼のほとりに建つ古い館を訪れた「私」は、異様に過敏な神経に苛まれる兄と、病を負う双子の妹、そして館そのものの不気味な気配に出会う。建物と一族の宿命を重ね合わせ、重苦しい情景描写で押し通した、ポーの幻想怪奇を代表する作品である。

あらすじ

雲の低くたれこめた陰鬱な秋の日、「私」は少年時代の親友ロデリック・アッシャーから届いた切迫した手紙に応じ、もの淋しい地方に建つアッシャー家を訪ねる。黒い沼のほとりに古色蒼然と沈むその館は、屋根から土台へと一筋の細い亀裂が走っていた。久しぶりに会うロデリックは神経が病的に過敏になり、かすかな光や音、匂いや味にも耐えられず、着るものや食べるものさえ限られるありさまで、双子の妹マデリン嬢もまた原因の知れぬ病で日ごとに衰えていた。「私」は友を慰めようと、ともに読書し、彼の即興の演奏や陰惨な絵に付き合って日を送る。やがてマデリンが息を引き取る。ロデリックは、遠方の墓地へ移すまでの間だとして、その亡骸を館内の湿った地下納骨室に納め、重い鉄の扉を閉ざす。それからというもの、ロデリックの様子はいよいよ常軌を逸してゆく。嵐の吹き荒れるある夜、怯える友を鎮めようと「私」が古い騎士物語を朗読すると、物語の中で鳴るはずの音——扉の破れる音、竜の断末魔の叫び、楯の落ちる響き——が、館のどこか奥から現実の物音となって不気味に呼応する。ついにロデリックは半狂乱で叫ぶ。妹はまだ生きているうちに葬られたのだ、幾日も前から棺の中で身動きする音が聞こえていたのに、自分は言い出せなかったのだ、と。その瞬間、大扉がひとりでに開き、屍衣に血をにじませたマデリン嬢が立っていた。彼女は兄の上に倒れかかり、ロデリックもまた、かねて予感していた恐怖のただ中で息絶える。恐ろしさに耐えかねて「私」が館を逃げ出すと、血のように赤い満月の光の中であの亀裂はみるみる広がり、アッシャー家は真っ二つに裂けて、暗い沼の底へ音もなく崩れ落ちていった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 雲が重苦しく空に低くかかった、もの憂い、暗い、寂寞とした秋の日を一日じゅう、私はただ一人馬にまたがって、妙にもの淋しい地方を通りすぎて行った。そして黄昏の影があたりに迫ってくるころ、ようやく憂鬱なアッシャー家の見えるところへまで来たのであった。どうしてなのかは知らない――がその建物を最初にちらと見たとたんに、堪えがたい憂愁の情が心にしみわたった。

「アッシャー家の崩壊」ポー(青空文庫)

末尾部(原文より)

 その部屋から、またその屋敷から、私は恐ろしさで夢中になって逃げ出した。古い土手道を走っているのに気がついたときには、嵐はなおも怒りくるって吹きすさんでいた。とつぜん、道に沿うてぱっと異様な光がさした。私の背後にはただ大きな家とその影とがあるだけであったから、そのようなただならぬ光がどこから来るのかを見ようと思って私は振りかえってみた。その輝きは、沈みゆく、血のように赤い、満月の光であった。月はいま、その建物の屋根から電光形に土台までのびていると前に言った、以前はほとんど眼につかぬくらいだったあの亀裂をとおして、ぎらぎらと輝いているのであった。じっと見ているうちに、この亀裂は急速に広くなった。――一陣の旋風がすさまじく吹いてきた。――月の全輪がこつぜんとして私の眼前にあらわれた。――巨大な壁が真っ二つに崩れ落ちるのを見たとき、私の頭はぐらぐらとした。――幾千の怒濤のひびきのような、長い、轟々たる、叫ぶような音が起った。――そして、私の足もとの、深い、どんよりした沼は、「アッシャー家」の破片を、陰鬱に、音もなく、呑みこんでしまった。

「アッシャー家の崩壊」ポー(青空文庫)

名文

雲が重苦しく空に低くかかった、もの憂い、暗い、寂寞とした秋の日を一日じゅう、私はただ一人馬にまたがって、妙にもの淋しい地方を通りすぎて行った。そして黄昏の影があたりに迫ってくるころ、ようやく憂鬱なアッシャー家の見えるところへまで来たのであった。

物語の書き出し。重く垂れこめた雲、もの憂い秋の一日、もの淋しい土地と、陰鬱な形容を重ねて、崩壊へ向かう物語の空気を冒頭から決定づける。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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