地獄風景(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
奇怪な遊園地の夢幻と残虐
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 53,803字
- 読了目安
- 約1時間48分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1931年(昭和6年)から翌年にかけて「探偵趣味」(江戸川乱歩全集付録冊子)などに連載した中編。Y市の郊外に、途方もない遊園地を造りあげた千万長者の一人息子・喜多川治良右衛門。「地獄」を思わせるその奇怪な娯楽園を舞台に、狂気じみた美と残虐の世界が繰り広げられる。「パノラマ島綺譚」に通じる、乱歩の夢幻的で耽美的な想像力が横溢する一編である。
あらすじ
M県南部の、古風で陰気な、忘れ果てられたような城下町Y市。その眠ったような町の郊外に、途方もない遊園地を拵えた男がいた。Y市一等の旧家、千万長者と言われる喜多川家の一人息子で、治良右衛門という奇妙な名の持ち主である。父母も亡く、妻も娶らず、係累のない三十三歳のこの奇人が、有り余る財産を注ぎ込んで造りあげたのは、「地獄」を思わせる奇怪な娯楽園——「ジロ楽園」だった。狂気じみた美と残虐に彩られたその夢のような遊園地を舞台に、常軌を逸した出来事が次々と起こっていく。物語の終幕、治良右衛門は、少女・鮎子とともに軽気球のゴンドラに乗り込み、綱を切って大空へと舞い上がる。追いすがる警官隊を振り切り、五色の紙テープを投げおろし、万歳を叫びながら、思い出深きジロ楽園の廃墟に永別を告げる。軽気球はどこまでも昇天し、やがて一匹の小さな魚のように、青空の底へと消えていくのだった。「パノラマ島綺譚」に通じる、乱歩の夢幻と耽美の世界が横溢する一編である。
登場人物
- 喜多川治良右衛門 奇怪な遊園地を造る千万長者の一人息子
- 鮎子 治良右衛門とともに気球で去る少女
冒頭部(原文より)
M県の南部にY市という古風で陰気な、忘れ果てられた様な都会がある。商工業が盛んな訳ではなく、といって、交通の要路に当る訳でもなく、ただ、旧幕時代の城下町であった為に人口が多く、漸く市の形を為しているに過ぎないのだ。 その眠った様なY市の郊外に、実に途方もない遊園地を拵えた男がある。
「地獄風景」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
治良右衛門と鮎子とは、ゴンドラから半身をのり出して、残っていた紙テープを悉く地上に投げおろし、声を合せて万歳を叫びながら、思出深きジロ楽園の廃墟に永別を告げた。 軽気球はどこまでも昇天して行った。幾つも幾つも白い綿雲をつき抜けて、一匹の小さな魚の様になって、房と下った五色のテープがその魚のひれの様に見えて、楽しげに、楽しげに、小さく、小さく、そして、いつしかほこりの様に幽かになって、果てしれぬ青空の底へと消えて行った。
「地獄風景」江戸川乱歩(青空文庫)
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