灯明之巻(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
荒寺の木魚と白鷺の沼
- 幻想
- 怪奇
- 文字数
- 23,373字
- 読了目安
- 約47分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 福島県
- 宮城県
この作品について
昭和8年1月の日付をもつ長めの作品で、ちくま文庫『泉鏡花集成9』に収められる。松島の旅の帰り、白河に近い荒れ寺を訪ねた俳人・小県凡杯(銑吉)の体験を、作者が聞き取る形で語る。蝮の出る卵塔場、木魚の下の女の提紙入れ、赤い装束の一行、白鷺と毒虫など、怪異の予感が次々と現れるが、本文は謎が解かれる前の場面で終わる。築地の牛屋の娘分お誓への片思いも描かれる。
あらすじ
松島の帰り、白河の近くで途中下車した俳人の小県凡杯(本名銑吉)は、先祖の墓がある片原を目指し、自動車に乗る。途中、赤いシャツを着た少年四人と、緋の法衣のような姿の痩せた男が相乗りし、銃を持って山へ消えていく。一行は逢魔沼のほうへ向かったらしい。銑吉は荒れ寺の西明寺で、山の爺さんと麦こがしを食べながら話を聞く。庫裡の大木魚の下には、女ものの提紙入れが置かれており、寺の観音堂には、子安の願をかける女の供物と扇子があった。扇子の名前は、銑吉が岡惚れしている築地の牛屋「梅水」の女中、お誓と同じだった。爺さんに扇子を取り上げられ、木魚を伏せられた銑吉は、赤い一行が白鷺を狙っているのではと胸を打たれる。本文はここで終わる。
登場人物
- 小県銑吉(凡杯) 俳人で会社員。お誓に岡惚れしている
- 山の爺さん(孫八) 荒寺の近くで暮らす老人
- お誓 築地の牛屋「梅水」の娘分の女中
- 赤い一行 赤い服の少年四人と、ヘルメットの痩せた男
冒頭部(原文より)
「やあ、やまかがしや蝮が居るぞう、あっけえやつだ、気をつけさっせえ。」 「ええ。」
「灯明之巻」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
青い煙の細くなびく、蝋燭の香の沁む裡に、さっきから打ちかさねて、ものの様子が、思わぬかくし事に懐姙したか、また産後か、おせい、といううつくしい女一人、はかなくなったか、煩ろうて死のうとするか、そのいずれか、とフト胸がせまって、涙ぐんだ目を、たちまち血の電光のごとく射たのは、林間の自動車に闖入した、五体個々にして、しかも畝り繋った赤色の夜叉である。渠等こそ、山を貫き、谷を穿って、うつくしい犠牲を猟るらん。飛天の銃は、あの、清く美しい白鷺を狙うらしく想わるるとともに、激毒を啣んだ霊鳥は、渠等に対していかなる防禦をするであろう、神話のごとき戦は、今日の中にも開かるるであろう。明神の晴れたる森は、たちまち黒雲に蔽わるるであろうも知れない。 銑吉は、少からず、猟奇の心に駆られたのである。 同時にお誓がうつくしき鳥と、おなじ境遇に置かるるもののように、衝と胸を打たれて、ぞっとした。その時、小枝が揺れて、卯の花が、しろじろと、細く白い手のように、銑吉の膝に縋った。
「灯明之巻」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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