南極の怪事(押川春浪)のあらすじ・登場人物
瓶に託された南極の秘密
- 冒険
- 怪奇
- 文字数
- 16,292字
- 読了目安
- 約33分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1905年(明治38年)に雑誌「中学世界」に発表された、押川春浪の短編。ポルトガルの海岸に流れ着いた一本のビール瓶の中から、一通の手紙が見つかる。そこには、アフリカ西岸を南へ向かう帆船で起きた海賊の襲撃と、ただひとり生き残った旅行者が目にした、南極の闇に浮かぶ不思議な光景が記されていた。瓶詰めの手記という古典的な語りを使い、ヨーロッパの学者たちがなぜ南極探検船を次々に送り出すのかという謎に結びつけた怪奇冒険小説である。
あらすじ
ヨーロッパの学者が相次いで南極探検船を出していること、そして古代文明国の巨船が行方知れずになったままであること。語り手はこの二つを読者に思い出させたうえで物語を始める。ポルトガルの海岸で二人の娘が拾った黒いビール瓶を、父のモンテス博士が割ると、中から黄色い紙の手紙が出てきた。書き手はスペインの旅行家ラゴン。真珠取り船「ビアフラ」に便乗してアフリカ西岸を南下するうち、船は海賊に襲われる。船員は全滅し、ラゴンだけが船底に隠れて生き延びる。気を失い、目を覚ますと、船は太陽も星もない永久の夜の海を、地球の果てに向かって漂っていた。そのうちに暗い海上に見えてきたのは、古代の国王が百人の勇士と百人の美人を乗せて旅立ったまま消えたという、瑠璃岸国の巨船だった。手紙はそこで終わり、記者は、学者たちが南極探検船を送る理由を読者に悟らせて物語を結ぶ。
登場人物
- ラゴン スペインの旅行家。瓶の手紙の書き手
- モンテス博士 ポルトガルの科学者。南極探検船を送り出す
- 博士の娘たち 海岸で瓶を拾った姉妹
- 帆船「ビアフラ」の船員と海賊 ラゴンの目の前で全滅する
冒頭部(原文より)
一 この怪異なる物語をなすにつき、読者諸君にあらかじめ記憶してもらわねばならぬ二つの事がある。その一は近頃ヨーロッパのある学者仲間で、地球の果に何か秘密でも見出さんとするごとく、幾度の失敗にも懲りず、しきりに南極探検船を出しておる事。その二は、いわゆる歴史の黒幕に蔽われたる太古、ぼうとして知るべからざる時代に、今は蛮地と云わるるアフリカ州の西岸、東に限りなき大沙漠を見渡すチュス付近に、古代の文明を集めたる一王国があって、その名は瑠璃岸国と口碑に伝えられているが、この国の最も盛んなりし頃、一人の好奇なる国王あり、何か物に感じたことでもあったものと見え、あるとき国中の材木を集めて驚くべき巨船を造り、船内の構造をすべて宮殿のごとく華麗にし、それに古代のあらゆる珍宝貨財と、百人の勇士と百人の美人とを乗せ、世界の諸国を経めぐらんとその国の港を出帆した。しかるにその船が南太平洋の波濤にもまれているうち、大暴風にでも遭ったものか、それとも海賊に襲われたものか、まったく行方不明になって、南太平洋の波濤は黙して語らず。 「どこにどうなってしまったか」という疑問が、数千年過ぎた今なお残っているという事。この二つの事――すなわち現時ヨーロッパのある学者仲間が、しきりに南極探検船を出しておる事と、古代文明国の一巨船が、永久の疑問を残して行方不明になった事とは、表面の観察では何等の関係もないようだ、イヤこうあらためて書けば、なんだか関係のあるように思う人があろうが、考えてみたまえ、数千年以前の物は、石の柱でも今は全く壊れてしまったほどだ、いわんや木で造った巨船においておやだ、好奇な学者先生いかに探しまわっても、いまさらそのような物の見つかる道理はあるまい。
「南極の怪事」押川春浪(青空文庫)
末尾部(原文より)
以上はコルテス博士がポルトガルの海岸にて拾上げし、不思議なる瓶中より出でし不思議なる書面なり、記者はもはや多く記さず、賢明なる読者諸君は、なにゆえに近頃ヨーロッパの学者社会より、幾度の失敗にも懲りず、しばしば不思議なる南極探検船の派遣せらるるか、その秘密をば知りたもうべし。
「南極の怪事」押川春浪(青空文庫)
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