人外魔境 有尾人(小栗虫太郎)のあらすじ・登場人物
尾をもつ原人と「悪魔の尿溜」
- 冒険
- 怪奇
- 文字数
- 38,795字
- 読了目安
- 約1時間18分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
小栗虫太郎が1939年(昭和14年)から『新青年』に連載した秘境冒険小説シリーズ「人外魔境」の第一話。のちのシリーズの語り手となる探検家・折竹孫七はまだ登場せず、伝奇作者の「私」が、航空誌や探検記の引用を並べて、赤道アフリカのコンゴ北東部に横たわる前人未踏の大湿林「悪魔の尿溜」と、そこにあるという巨獣の終焉地「知られざる森の墓場」を紹介するところから始まる。物語の中心は、モザンビイクで熱帯の精神病を研究する日本人の混血青年医師・座間七郎。密猟者が捕らえてきた、尾をもつ原人めいた生き物「ドド」をきっかけに、座間は恋人マヌエラらとともに魔境の奥へ踏み込んでいく。ルビと異国語を多用した衒学的な文体と奇想が全編にあふれている。
あらすじ
葡領東アフリカのモザンビイク。熱帯の狂人の治療に身を捧げる三分混血の日本人医師・座間七郎は、密猟者カークがコンゴの奥地で捕らえた有尾の原人「ドド」を、動物学者アッコルティ先生に見せる。ドドは魔境「悪魔の尿溜」の近くで見つかったうえ、なぜか飛行機を恐れない。座間の婚約者で富豪の娘マヌエラはドドをかわいがるが、ある夜、彼女が嫌っていたはずの白人青年ヤンと抱き合い、淫らな言葉を口にするのを座間は目撃する。絶望した座間は、ゴリラの骸が眠るという森の墓場とドドの故郷を求めて探検を決意し、マヌエラ、ヤン、カーク、ドドとともに出発する。密林の手前で一行は、二十年余り隠れ住んでナイルの水源閉塞をもくろむ狂ったドイツ人バイエルタールに捕らえられる。殺されると覚悟した夜、マヌエラが知らないはずのドイツ語で見張りの会話を口真似しはじめ、座間はそれがマレーの血による遺伝の発作病「ラター」だと悟る。あの夜の狂態も、目の前の言葉や動作をまねる症状だったのだ。一行は彼女が聞き取った地下道から逃れ、密林をさまよう。ヤンはマヌエラに迫ってドドと格闘になり、崩れ落ちる大地とともに陥没地へ消える。三人は悪魔の尿溜の縁をのぞいて生還の目処をつけるが、座間は病の行く末を案じてマヌエラを断崖から突き落とそうとし、流沙にのまれて姿を消す。一月後、マヌエラのもとに座間の手記が届く。岩塩の洞窟で塩漬けのゴリラの墓場を見つけ、死にゆく老ゴリラと暮らすうち、魔境の掟に人間らしい心を奪われていったという。手紙を届けたのは、ポストの下で骸となっていたドドだった。
登場人物
- 座間七郎 モザンビイクで熱帯の精神病を研究する三分混血の日本人医師。人道主義の理想家
- マヌエラ 富豪メンドーサの娘で座間の婚約者。敬虔で清らかだが、不可解な振る舞いを見せる
- ジョジアス・カーク コンゴで禁獣を狩る黒白混血の密猟者。座間の友
- ドド カークが捕らえた有尾の原人めいた生き物。マヌエラによくなつく
- ヤン・ベデーツ マヌエラの幼なじみのベルギー人青年。座間を蔑み、マヌエラにつきまとう
冒頭部(原文より)
大魔境「悪魔の尿溜」 フランスの自動車会社シトロエンの探検隊――。これは、米国地理学協会ほどの大規模なものではないが、とにかく一営利会社としてはなかなかの仕事をしている。
「人外魔境 有尾人」小栗虫太郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
彼女は、草原の熱風に吹きさらされる骨を思い、座間の怪奇を絶した異常経験には、一滴も、流さなかった涙をすうと滴らした。 それから、ドドの血がついた封筒に唇をあて、人間よりも、高貴な純真なドドのために、心からの親しさでそっと十字を印したのである。
「人外魔境 有尾人」小栗虫太郎(青空文庫)
原文を読む
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