月世界競争探検(押川春浪)のあらすじ・登場人物
飛行船で月へ、叔父を捜しに
- SF
- 冒険
- 文字数
- 8,321字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1907年(明治40年)、雑誌「探検世界」の秋季臨時増刊「月世界」号に載った押川春浪の短編。行方不明になった篠山博士を捜すため、二人の青年が飛行船で月へ向けて地球を旅立ち、先に着いた者が博士を連れ帰るという競争を描く。月面での捜索、洞穴での再会、そして競争相手との対決と、明治の少年たちが胸を躍らせた空想科学冒険の趣向がコンパクトにまとまっている。
あらすじ
東京大学の篠山博士が自作の飛行船で月世界探検に旅立ってから半年、博士からは何の便りもなかった。そこで博士の甥の雲井文彦と、博士の娘に思いを寄せる秋山男爵のふたりが、どちらが先に博士を見つけて連れ戻すかを競い、それぞれ飛行船で出発することになる。上野の公園は見送りの群衆であふれた。一週間の航行ののち月に降り立った文彦と従者の東助は、飛行船の部品の木片を手がかりに壊れた月宮号を発見し、洞穴の奥で衰弱した博士を見つける。しかし文彦が荷物を取りに戻った留守に、博士は秋山男爵に連れ去られてしまう。文彦は飛行船で追いかけ、決闘の寸前に東助の放った一弾で秋山は倒れる。文彦たちは博士を連れて、地球への帰途につくのだった。
登場人物
- 雲井文彦 篠山博士の甥。叔父を救うため月へ向かう青年
- 東助 文彦に仕える忠義な従者
- 篠山博士 飛行船で月へ向かい、消息を絶った科学者
- 秋山男爵 文彦の競争相手。博士を奪おうとする
冒頭部(原文より)
博士捜索隊の出発 明治四十年十月十日の東京新聞は、いずれを見てもまず読者の目を惹いたのは、一号活字で「恋の競争飛行船の月界探検」と表題をだし、本文にも二号沢山の次のごとき、空前の記事であった。 「今より凡そ半年以前即ち今年五月一日を以て、東京大学教授篠山博士が月界探検のため自ら発明せる飛行船に乗じ助手一名とともに吾が地球を出発せる事は読者の未だ記憶せらるる処ならんが、その後博士よりは今日まで杳として一片の消息だになく、あるいは飛行船の不完全のため中途その目的を達せずして、研究のためその一命を捧げしには非ずやと伝うものさえありて、飛説紛々として生じ、氏の知己は日夜憂慮しつつあるが、ここに最も哀れなるは、氏の愛子月子嬢の身の上にして、幼にして母を失いたる嬢は、ただ天にも地にも博士一人を力としいたりしに計らずも今回の不幸に際し、悲歎やる方なく、日は日もすがら、夜は夜もすがら父の身を配慮いて泣き明かせるほどにて、そのあまり花をも欺く麗容もあたら夜半の嵐に散り失せぬべきほどの容体となりぬ。その様を黙視するに忍びず、一身を賭して博士の生死を探らんその報酬として運よく探りあてたる方へは、嬢の一身を托せらるべしと嬢に申込みたる二人の青年紳士あり。その一人は秋山男爵にして、一人は博士の遠縁に当る雲井文彦という青年紳士なるが、いずれも博士が、まだ出発せざる以前より深くも嬢に心をよせ己が胸中のありたけを打ち明けしも、嬢は二人の情に絆されていずれとも答えかねしが、今二人のこの申込に対し、親を思うに厚き嬢は遂にその言を容れたり。されば二人はいよいよ死を決して、嬢が悲を除き、日頃の思を遂げんと、いよいよ今日正十二時を期し、日比谷公園より、各自の飛行船に乗じて出発の途につくべしと。云々と……………」 と、このような小説的の記事を読んで、満都の人々は非常な好奇心と同情を持って、今日の二勇士の首途を見んと、四方から雪崩のごとく押しよせて、すでにその日の九時頃には、さしもに広き公園も、これらの人々を持って埋まって終った。
「月世界競争探検」押川春浪(青空文庫)
末尾部(原文より)
と一言叫んだと思うと、急所の傷手にはかなく絶命して終った。 文彦は悪人ながらも男爵の死を悼んで杉田とともに月界に手厚く葬り、その上に紀念碑を建てて其後一週間ばかりその地に止って、博士のやや元気を回復するを待ち、博士、東助、及び主人の死後改悛の意を表して服従した平三と各々二人ずつ二個の飛行船に分乗して地球に向って出発したのである。
「月世界競争探検」押川春浪(青空文庫)
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