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妖婆(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

大正の東京に棲む妖婆

  • 怪奇
  • 恋愛

芥川龍之介 1919年(大正8年)9月 「中央公論」

文字数
37,474字
読了目安
約1時間15分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

芥川龍之介が大正8年に「中央公論」の9月号、10月号に連載した怪異小説。大正の東京を舞台に、ポオやホフマンの小説のような不思議が現実の都会でも起こりうると語り手が説き、出版書肆の若主人から聞いた話として、本所の神下しの婆をめぐる事件を紹介する。芥川の作品のなかでは長めで、語り手が「あなた」に語りかける口調と、電車や電話といった当時の都市の道具立てに、怪異を織り込む点が特徴である。

あらすじ

語り手は、大正の東京にも怪異は潜んでいると前置きし、日本橋の出版書肆の若主人、新蔵から聞いた話を伝える。新蔵は奉公人のお敏と恋仲だったが、お敏は暇を取ったまま行方がわからなくなる。商業学校時代の友人、泰さんの勧めで本所の神下しの婆、お島婆さんを訪ねると、そこにお敏がいた。お島婆さんは、二人の縁を結べば必ず一人は身を滅ぼすと脅す。実はお敏は、お島婆さんが婆娑羅の大神を下ろす時の依代にされ、金持ちの相場師の妾にされようとしていた。新蔵とお敏は石河岸でひそかに会い、泰さんがお敏に神憑りの芝居をさせる計画を立てる。しかし新蔵の周りには烏羽揚羽の蝶や大きな眼の幻が現れ、電話にもお島婆さんの声が割り込む。計画は婆の秘法に敗れ、雷雨の石河岸で新蔵とお敏は心中を覚悟する。その時、近くへ落雷があって新蔵は気を失い、数日後に日本橋の家で正気に返る。

登場人物

冒頭部(原文より)

 あなたは私の申し上げる事を御信じにならないかも知れません。いや、きっと嘘だと御思いなさるでしょう。昔なら知らず、これから私の申し上げる事は、大正の昭代にあった事なのです。しかも御同様住み慣れている、この東京にあった事なのです。外へ出れば電車や自働車が走っている。内へはいればしっきりなく電話のベルが鳴っている。新聞を見れば同盟罷工や婦人運動の報道が出ている。――そう云う今日、この大都会の一隅でポオやホフマンの小説にでもありそうな、気味の悪い事件が起ったと云う事は、いくら私が事実だと申した所で、御信じになれないのは御尤もです。

「妖婆」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

「この朝顔はね、あの婆の家にいた時から、お敏さんが丹精した鉢植なんだ。ところがあの雨の日に咲いた瑠璃色の花だけは、奇体に今日まで凋まないんだよ。お敏さんは何でもこの花が咲いている限り、きっと君は本復するに違いないって、自分も信じりゃ僕たちにも度々云っていたものなんだ。その甲斐があって、君が正気に返ったんだから、同じ不思議な現象にしても、これだけはいかにも優しいじゃないか。」

「妖婆」芥川龍之介(青空文庫)

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