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木精(三尺角拾遺)(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

材木に葉が茂る夜の霧の怪

  • 怪奇
  • 恋愛

泉鏡花 1901年(明治34年)6月 「小天地」

文字数
2,911字
読了目安
約6分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1901年(明治34年)6月、雑誌『小天地』に発表された掌編。副題が示すとおり、初期の『三尺角』(1894年)と同じ深川の木場を舞台にした「拾遺」の一編である。「材木に葉が繁ったら夫婦になる」という言葉を持ち出す女と、病み上がりの青年が、霧の立つ夜の池のほとりで寄り添う。三千字に満たない短さのなかで、会話の甘さと水辺の怪異が重なり、後半は幻と現実の境が溶けていく。短い作品でも鏡花らしい幻想の運びを味わえる。

あらすじ

霧の立つ深川の木場の夜。お柳は病み上がりの工学士・金さんを連れ出し、材木に葉が繁ったら夫婦になってやるという彼の言葉どおり、その葉の茂った様子を見せたかったと語って、池のほとりで寄り添う。想いを打ち明ける二人の前の水面を、霧と同じ色の衣をまとった異形の者が渡り、材木の間に緑青色の顔の異人が消える。対岸の松の間には手招く女が立ち、赤子を乗せた船が水の上をすべって行く。学士が思わず抱きしめたお柳の姿は、墨のように薄れて消え、夜がほのぼのと明ける。学士は昨夜、自邸で床に入ったことしか覚えていない。線香の香に我に返り、お柳の姉の家を訪ねて尋ねると、お柳はちょうどその時……と、言葉を途切らせたまま物語は閉じる。

登場人物

冒頭部(原文より)

「あなた、冷えやしませんか。」  お柳は暗夜の中に悄然と立って、池に臨んで、その肩を並べたのである。工学士は、井桁に組んだ材木の下なる端へ、窮屈に腰を懸けたが、口元に近々と吸った巻煙草が燃えて、その若々しい横顔と帽子の鍔広な裏とを照らした。

「木精(三尺角拾遺)」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 学士は昨夜、礫川なるその邸で、確に寝床に入ったことを知って、あとは恰も夢のよう。今を現とも覚えず。唯見れば池のふちなる濡れ土を、五六寸離れて立つ霧の中に、唱名の声、鈴の音、深川木場のお柳が姉の門に紛れはない。然も面を打つ一脈の線香の香に、学士はハッと我に返った。何も彼も忘れ果てて、狂気の如く、その家を音信れて聞くと、お柳は丁ど爾時……。あわれ、草木も、婦人も、霊魂に姿があるのか。

「木精(三尺角拾遺)」泉鏡花(青空文庫)

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