瓶詰地獄(夢野久作)のあらすじ・登場人物
海から届いた三本の瓶
- 怪奇
- 恋愛
- 文字数
- 6,793字
- 読了目安
- 約14分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1928年(昭和3年)10月、『猟奇』に発表された夢野久作の短編小説。ある島の役場が海洋研究所へ送る、事務的な文面の書簡で幕を開ける。潮流研究用と思われた三本のビール瓶が漂着したが、中にあるのは指定の葉書ではなく、雑記帳の切れ端らしいという。続いて、それぞれの瓶に収められた文章が示される。孤島の暮らしや家族への呼びかけを、遠く離れた場所へ届けようとする手紙の形で綴る構成に特色がある。役場の候文から個人の切迫した声へと文体が変わり、海や植物、食べ物などの具体的な記述が、書き手の生活を伝えていく。語り手が外から事情を説明する代わりに、残された文書を読むという状況そのものが物語の入口になる。誰に向けて、何を伝えるために書かれた言葉なのか。瓶という小さな容器と、隔たりの大きな海とを取り合わせた一編である。
あらすじ
ある島に漂着した三本の麦酒瓶が、役場から海洋研究所へ送られる。中に収められていたのは、幼いころに二人きりで別の島へ流れ着いた兄太郎と妹アヤ子の手紙だった。最初に読まれる手紙には、救助の船が現れたにもかかわらず、二人が固く抱き合って海に身を投げて死ぬことを神に赦してほしいという痛切な言葉が綴られている。次の手紙には、火を熾し、木の実や魚を得て生き延びた島での暮らしと、成長するにつれ互いへの想いが変わっていく戸惑いが記される。神の教えに背くその想いに苦しみながら、二人だけの楽園は地獄へと変じてゆく。最後には、両親に救助を求める幼い兄妹の短い手紙が置かれている。
登場人物
- 太郎 難破により幼くして無人島に流れ着いた兄。妹アヤ子と二人で生き延びる
- アヤ子 太郎の妹。兄とともに孤島で育ち、成長するにつれ複雑な感情を抱く
冒頭部(原文より)
拝呈 時下益々御清栄、奉慶賀候。陳者、予てより御通達の、潮流研究用と覚しき、赤封蝋附きの麦酒瓶、拾得次第届告仕る様、島民一般に申渡置候処、此程、本島南岸に、別小包の如き、樹脂封蝋附きの麦酒瓶が三個漂着致し居るを発見、届出申候。
「瓶詰地獄」夢野久作(青空文庫)
末尾部(原文より)
オ父サマ。オ母サマ。ボクタチ兄ダイハ、ナカヨク、タッシャニ、コノシマニ、クラシテイマス。ハヤク、タスケニ、キテクダサイ。 市川 太郎 イチカワ アヤコ
「瓶詰地獄」夢野久作(青空文庫)
名文
ああ………この離れ島に、救いの舟がとうとう来ました。
「第一の瓶」の手紙の書き出し。流れ着いた三つの瓶の手紙は時間をさかのぼる順に並べられ、救いの舟を目にした喜びの一行から、兄妹の秘められた地獄が逆向きに明かされていく。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。