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スペードの女王(プーシキン)のあらすじ・登場人物

三枚の必勝札の秘密

  • 怪奇
  • 翻訳

プーシキン 訳者 岡本綺堂 1929年(昭和4年)

文字数
27,525字
読了目安
約55分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

ロシア近代文学の祖とされるプーシキンが1834年に発表した中編を、怪談の名手として知られる岡本綺堂が訳し、『世界怪談名作集』に収めたもの。ペテルブルグの近衛士官たちの骨牌の席で、ある老伯爵夫人が三枚続けて勝つ札の秘密を知っているという昔話が語られる。賭けをしないことを信条にしてきたドイツ系の工兵士官ヘルマンは、その話に心を奪われる。簡潔な文体で人の欲望と運命を描いた作品で、チャイコフスキーのオペラの原作としても名高い。綺堂は骨牌の用語に短い説明を添え、読みやすい語り口で訳している。

あらすじ

近衛騎兵ナルモヴの部屋での骨牌の会で、トムスキイは祖母の老伯爵夫人の昔話を披露する。若いころパリで大負けした祖母は、サン・ジェルマン伯から三枚の札が続けて勝つ秘策を授かり、負けを取り返したという。賭けを一度もしたことのない工兵士官ヘルマンは、この話に取りつかれる。彼は伯爵夫人の邸に住む附き添いの娘リザヴェッタに恋文を送って心をつかみ、夜の邸に忍び込む手引きを得る。舞踏会から戻った伯爵夫人の前に現れたヘルマンは、秘密を教えてほしいと哀願し、ついにはピストルを突きつけるが、老夫人はそのまま息絶える。リザヴェッタは、彼が求めていたのは自分ではなく金だったと知って涙を流す。葬儀の晩、ヘルマンのもとに白衣の伯爵夫人の幽霊が現れ、「三、七、一」の順に賭ければ勝つと告げ、一晩に一度だけ賭けて生涯二度と賭けないこと、リザヴェッタと結婚することを条件とする。ヘルマンはモスクワから来た賭博の元締シェカリンスキイの席で、二晩続けて三と七に大金を賭けて勝つ。三晩目、一に賭けたはずの札は、開いてみるとスペードの女王で、その顔は伯爵夫人に生き写しだった。すべてを失った彼は発狂し、病院で「三、七、一」とささやき続ける。

登場人物

冒頭部(原文より)

 近衛騎兵のナルモヴの部屋で骨牌の会があった。長い冬の夜はいつか過ぎて、一同が夜食の食卓に着いた時はもう朝の五時であった。勝負に勝った組はうまそうに食べ、負けた連中は気がなさそうに喰い荒らされた皿を見つめていた。しかし、シャンパン酒が出ると、とにかくだんだんに活気づいて来て、勝った者も負けた者もみんなしゃべり出した。 「で、君はどうだったのだい、スーリン」と、主人公のナルモヴが訊いた。 「やあ、相変わらず取られたのさ。僕はどうも運が悪いと諦めているよ。なにしろやっていることがミランドール(一種の骨牌戯)だし、いつも冷静にしているから、手違いのしようがないのだが、それでいて、しじゅう負けているのだからね」 「だって君は、一度も赤札に賭けようとしなかったじゃないか。僕は君の強情にはおどろいてしまったよ」 「しかし君はヘルマンをどう思う」と、客の一人が若い工兵士官を指さしながら言った。「この先生は生まれてから、かつて一枚の骨牌札も手にしたこともなければ、一度も賭けをしたこともないのに、朝の五時までこうしてここに腰をかけて、われわれの勝負を眺めているのだからな」 「人の勝負を見ているのが僕には大いに愉快なのだ」と、ヘルマンは言った。「だが、僕は自分の生活に不必要な金を犠牲にすることが出来るような身分ではないからな」

「スペードの女王」プーシキン(青空文庫)

末尾部(原文より)

 シェカリンスキイは自分の勝った金を掻き集めた。しばらくのあいだ、ヘルマンは身動き一つしなかったが、やがて彼がテーブルを離れると、部屋じゅうが騒然と沸き返った。 「実に見事な勝負だった」と、賭博者たちは称讃した。シェカリンスキイは新しく骨牌を切って、いつものように勝負を始めた。  ヘルマンは発狂した。そうして今でもなお、オブコフ病院の十七号病室に監禁されている。彼はほかの問いには返事をしないが、絶えず非常な早口で「三、七、一!」「三、七、一!」とささやいているのであった。  リザヴェッタ・イヴァノヴナは、老伯爵夫人の以前の執事の息子で前途有望の青年と結婚した。その男はどこかの県庁に奉職して、かなりの収入を得ているが、リザヴェッタはやはり貧しい女であることに甘んじている。  トムスキイは大尉級に昇進して、ポーリン公爵令嬢の夫となった。

「スペードの女王」プーシキン(青空文庫)

名文

近衛騎兵のナルモヴの部屋で骨牌の会があった。長い冬の夜はいつか過ぎて、一同が夜食の食卓に着いた時はもう朝の五時であった。

プーシキン『スペードの女王』の書き出し。ペテルブルグの士官たちの賭博の夜明けから、三枚の札をめぐる怪談が始まる。岡本綺堂の訳。

精神界において二つの固定した想念が共存するということは、物質界において二つの物体が同時に同じ場所に存在する事と同じように不可能である。

ある秘密を知った主人公ヘルマンの心を語る、警句のような一文。ひとつの考えに取りつかれていく人間を、冷ややかな理屈で言い表す。

ヘルマンははっとした。一の札だと思っていたのが、いつの間にかスペードの女王になっているではないか。

必勝の三枚の札に全財産を賭けた最後の勝負で、出した札が入れ替わっていたことに気づく場面。題名の札が運命を決める。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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