貴婦人(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
峠の宿に棲む白い鸚鵡
- 幻想
- 怪奇
- 文字数
- 7,672字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
明治44年(1911年)10月、PR誌「三越」に発表された。師と仰ぐ文学者のもとへ上京する途中の青年が、栃木峠の二軒の旅籠のうち、人が泊まらないと言われる家で、一人の美しい女と過ごす一夜を描く。人の寄りつかぬ山中の宿、秋風や霧、橋の下の谷間、栃の実の餅といった細部が、静かに怪しい気配を重ねる。結びは、鏡花がたびたび描いた「妖しいものとの出会い」の型のひとつ。
あらすじ
都の文学者への入門を夢み、一人旅で上京する沢は、栃木峠の麓の茶店で、峠に旅籠が蔵屋と鍵屋の二軒しかなく、鍵屋には誰も泊まらないと聞く。沢は蔵屋に泊まるが寝つけず、霧の夜道に出て鍵屋の前を通り、軒下で柿を売る家に腰をかけた美しい都人の女に会う。女は、お化けが出るという鍵屋に泊まるよう誘い、荷物の革鞄まで運んでしまう。夜更け、沢は広い家の奥で、洋書を読む女の部屋を見つける。書棚の背表紙は、沢が師と仰ぐ文学者の著作だった。女は、自分は人間ではなく、白い鸚鵡だと打ち明ける。かつて先生を贔屓にする夫人に飼われ、二人の仲立ちをするため先生のもとへ贈られた鳥だった。女は栃の実の餅を勧め、顔が嘴に、身体が白い翼に変わるのを見て、沢は心を失う。夜明け、女は松明をかざして沢を見送った。
登場人物
- 沢 上京の途中、栃木峠で一夜を過ごす青年。ある文学者に入門するところ
- 鍵屋の女 峠の旅籠に一人で逗留する美しい都人。正体は白い鸚鵡
- 蔵屋の按摩・亭主 峠のもう一軒の旅籠の人々
冒頭部(原文より)
番茶を焙じるらしい、いゝ香気が、真夜中とも思ふ頃芬としたので、うと/\としたやうだつた沢は、はつきりと目が覚めた。 随分遙々の旅だつたけれども、時計と云ふものを持たないので、何時頃か、其は分らぬ。尤も村里を遠く離れた峠の宿で、鐘の声など聞えやうが無い。
「貴婦人」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
東雲の気爽に、送つて来て別れる時、つと高く通しるべの松明を挙げて、前途を示して云つた。其の火は朝露に晃々と、霧を払つて、満山の木の葉に映つた、松明は竜田姫が、恁くて錦を染むる、燃ゆるが如き絵の具であらう。 ……白い鸚鵡を、今も信ずる。
「貴婦人」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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