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少年(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物

屋敷で繰り広げられた秘密の遊戯

  • 心理

谷崎潤一郎 1911年(明治44年)6月 「スバル」

文字数
23,229字
読了目安
約46分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

谷崎潤一郎が1911年(明治44)に雑誌『スバル』に発表した初期短編。日本橋蠣殻町に育った「私」が、二十年前の少年時代、同級の坊ちゃん・信一の屋敷で繰り広げられた秘密の遊戯を回想する。遊びのなかで少年たちの立場が入れ替わる様子と、信一の姉・光子の存在を、明治の東京下町の情趣とともに描く。デビュー期の谷崎の悪魔主義を代表する一編で、「刺青」とともに永井荷風に激賞された出世作である。

あらすじ

日本橋の学校に通う十歳の「私」栄太郎は、ある春の日、級友の塙信一に誘われて蠣殻町の宏壮な屋敷へ遊びに行く。信一は学校では女中を附き添わせた評判の意気地なしだが、屋敷の中では一変し、「私」や小僧の仙吉を狼や罪人に見立てた遊戯で意のままに苛む小さな暴君となる。薄暗い土蔵や人気のない西洋館を舞台に、遊びはしだいに残酷な色を帯びていくが、「私」は責め苛まれることに不思議な甘美を覚えていく。やがて信一の姉・光子が遊びに加わると、力関係はまたも逆転する。人形のように美しい光子は、弟をも含めた三人の少年を家来のように従え、額に蝋燭を立てさせ、湯上がりの爪を切らせるなどの苛烈な戯れで君臨し、「長く此の国の女王となった」のである。

登場人物

冒頭部(原文より)

もう彼れ此れ二十年ばかりも前になろう。漸く私が十ぐらいで、蠣殻町二丁目の家から水天宮裏の有馬学校へ通って居た時分―――人形町通りの空が霞んで、軒並の商家の紺暖簾にぽか/\と日があたって、取り止めのない夢のような幼心にも何となく春が感じられる陽気な時候の頃であった。 或るうら/\と晴れた日の事、眠くなるような午後の授業が済んで墨だらけの手に算盤を抱えながら学校の門を出ようとすると、 「萩原の栄ちゃん」 と、私の名を呼んで後からばた/\と追いかけて来た者がある。

「少年」谷崎潤一郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

其の明くる日から、私も仙吉も光子の前へ出ると猫のように大人しくなって跪き、たま/\信一が姉の言葉に逆おうとすると、忽ち取って抑えて、何の会釈もなくふん縛ったり撲ったりするので、さしも傲慢な信一も、だん/\日を経るに従ってすっかり姉の家来となり、家に居ても学校に居る時と同じように全く卑屈な意気地なしと変って了った。三人は何か新しく珍らしい遊戯の方法でも発見したように嬉々として光子の命令に服従し、「腰掛けにおなり」と云えば直ぐ四つ這いになって背を向けるし、「吐月峰におなり」と云えば直ちに畏まって口を開く。次第に光子は増長して三人を奴隷の如く追い使い、湯上りの爪を切らせたり、鼻の穴の掃除を命じたり、Urine を飲ませたり、始終私達を側へ侍らせて、長く此の国の女王となった。 西洋館へは其れ切り一度も行かなかった。彼の青大将は果して本物だか贋物だか、今考えて見てもよく判らない。

「少年」谷崎潤一郎(青空文庫)

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