アプリで読む

無料・登録不要

幇間(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物

媚びることに悦びを見る男

  • 心理
  • 風刺

谷崎潤一郎 1911年(明治44年)9月 「スバル」

文字数
11,766字
読了目安
約24分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

谷崎潤一郎が1911年(明治44)に雑誌『スバル』に発表した初期短編。日露戦争後の好景気に沸く明治四十年の東京を舞台に、人に媚びへつらうことを天職とする幇間・三平の姿を描く。旦那衆の機嫌を取り、嘲られることにさえ悦びを見出す三平と、勝気な芸者・梅吉との関わりを、向島の花見の描写もあでやかに、憐れみと可笑しみの入り交じる筆で仕立てる。被虐の悦楽という谷崎的な主題を幇間の生態に写した初期の佳品である。

あらすじ

日露戦争後の好景気に沸く明治四十年の四月、桜の満開の向島へ、成金の旦那・榊原の一行を乗せた花見船が繰り出す。座を取り持つのは幇間の三平。人に媚び、人を笑わせ、嘲られてはかえって喜ぶという生まれつきの太鼓持ち気質で、旦那衆の寵を得ている男である。その三平が、勝気で男勝りの芸者・梅吉に本気の恋をした。翻弄されながらも通いつめる三平を見て、榊原の旦那は面白半分に仲を取り持とうとし、梅吉は焦らした揚句、一夜の座敷で三平を散々に弄ぶ。着物を一枚ずつ剥がされ、裸にされてなお、三平は梅吉の酷い言葉が嬉しくてたまらない。眠らされたことも知らない三平は、翌朝、素知らぬ顔の梅吉に本懐を遂げたと思い込まされ、旦那に首尾を問われて「女はやっぱり女でげす」と恐悦至極の体で、卑しい笑いを浮かべて扇子で額を打つのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

明治三十七年の春から、三十八年の秋へかけて、世界中を騒がせた日露戦争が漸くポウツマス条約に終りを告げ、国力発展の名の下に、いろいろの企業が続々と勃興して、新華族も出来れば成り金も出来るし、世間一帯が何となくお祭りのように景気附いて居た四十年の四月の半ば頃の事でした。 丁度向島の土手は、桜が満開で、青々と晴れ渡った麗らかな日曜日の午前中から、浅草行きの電車も蒸汽船も一杯の人を乗せ、群衆が蟻のようにぞろぞろ渡って行く吾妻橋の向うは、八百松から言問の艇庫の辺へ暖かそうな霞がかゝり、対岸の小松宮御別邸を始め、橋場、今戸、花川戸の街々まで、もや/\とした藍色の光りの中に眠って、其の後には公園の十二階が、水蒸気の多い、咽せ返るような紺青の空に、朦朧と立って居ます。

「幇間」谷崎潤一郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

「三平、此の間の首尾はどうだったい。」 と、それから二三日過ぎて、榊原の旦那が尋ねました。 「や、どうもお蔭様で有難うがす。なあにぶつかって見りゃあまるでたわいはありませんや。気丈だの、勝気だのと云ったって、女はやっぱり女でげす。からッきし、だらしも何もあった話じゃありません。」 と、恐悦至極の体たらくに、 「お前もなか/\色男だな。」 こう云って冷やかすと、 「えへゝゝゝ」 と、三平は卑しい Professional な笑い方をして、扇子でぽんと額を打ちました。

「幇間」谷崎潤一郎(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品