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保吉の手帳から(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

海軍の学校の保吉の記録

  • 風刺
  • 心理

芥川龍之介 1923年(大正12年)5月 「改造」

文字数
8,772字
読了目安
約18分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

芥川龍之介の連作的な小品集。海軍の学校で教師を務める「保吉」の身辺を、「わん」「西洋人」「午休み」「恥」「勇ましい守衛」の五つの断章に分けて描く。保吉は、芥川が海軍機関学校で英語を教えた経験を重ねた人物とされ、同じ名の人物は他の作品にも現れる。教師の月給、西洋人教師、守衛といった学校の日常を、皮肉とユーモアで観察する。大正12年4月の日付があり、5月に「改造」へ発表された。

あらすじ

「わん」では、保吉が薄汚いレストランの二階で時間をつぶしていると、海軍の主計官が窓の外の乞食に「わんと云え」と呼びかけ、オレンジを落としてやる。一週間後、月給日に主計部へ行くと、保吉は主計官に「わんと云いましょうか」と言ってみせる。「西洋人」では、学校の英国人タウンゼンドと米国人スタアレットの人柄が描かれる。「午休み」は、昼休みに庭へ出た保吉の空想で、毛虫や幾何の図までがものを言う。「恥」では、下調べの足りなくなった授業の時間が持たず、保吉は赤面して教科書を無茶苦茶に読み進める。「勇ましい守衛」では、盗人に海へ投げ込まれた守衛の大浦が、賞与が出るかどうかを考えて取り逃がしたと打ち明け、保吉はその秘密に気づく。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ある冬の日の暮、保吉は薄汚いレストランの二階に脂臭い焼パンを齧っていた。彼のテエブルの前にあるのは亀裂の入った白壁だった。そこにはまた斜かいに、「ホット(あたたかい)サンドウィッチもあります」と書いた、細長い紙が貼りつけてあった。(これを彼の同僚の一人は「ほっと暖いサンドウィッチ」と読み、真面目に不思議がったものである。)それから左は下へ降りる階段、右は直に硝子窓だった。彼は焼パンを齧りながら、時々ぼんやり窓の外を眺めた。窓の外には往来の向うに亜鉛屋根の古着屋が一軒、職工用の青服だのカアキ色のマントだのをぶら下げていた。

「保吉の手帳から」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

大浦は今度は黙っていた。が、保吉が煙草を啣えると、急に彼自身のマッチを擦り、その火を保吉の前へ出した。保吉は赤あかと靡いた焔を煙草の先に移しながら、思わず口もとに動いた微笑を悟られないように噛み殺した。 「難有う。」 「いや、どうしまして。」  大浦はさりげない言葉と共に、マッチの箱をポケットへ返した。しかし保吉は今日もなおこの勇ましい守衛の秘密を看破したことと信じている。あの一点のマッチの火は保吉のためにばかり擦られたのではない。実に大浦の武士道を冥々の裡に照覧し給う神々のために擦られたのである。

「保吉の手帳から」芥川龍之介(青空文庫)

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原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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