アプリで読む

無料・登録不要

銀鼎(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

銀の小鍋と雨の夜汽車

  • 幻想
  • 心理

泉鏡花 1921年(大正10年)7月 「国本」

文字数
8,187字
読了目安
約16分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 福島県

この作品について

大正10年(1921年)7月、「国本」に発表された。友人の葬儀の帰りに奥羽線で夜汽車に乗る園が、亡き友人の夫人から贈られた湯沸かしの銀の小鍋を携えていく。雨の上野、宇都宮、白河と夜が深まり、乗客も減るなか、聞こえる蛙の声、駅の屋台のうどん、順礼の姿、無人の特別車と、現実と幻の境が薄れる。擬音と会話を生かした夜汽車の描写が印象的。

あらすじ

五月、園は友人の香川の葬儀を済ませ、その足で夜の上野から奥州へ向かう汽車に乗る。バスケットには、香川の亡き妻衣絵がかつて友染の袋に包んで贈った、旅先で湯を沸かすための銀の小鍋が入っている。雨の夜の汽車は、宇都宮、那須野と進み、うとうとした園は二本松を通り過ぎたと思い込む。同室の茶の外套の旅客に指摘されて夢だったと気づく。白河駅で、園は雨の中、うどんをすする順礼の顔を見て気分が悪くなり、自分の鍋でうどんを買おうとすると、誰かが手を添えるような気がする。やがて園は、衣絵の旅した車と寸分違わぬ『臨時運転特別車』に移り、卯の花の花びらがかかった鍋で、アルコールに火をつける。茶の外套の旅客は駅員を呼びに行き、列車ボーイが荷を運び去る。園は自分が狐憑きか狂人と思われたと感じ、心細さのなか、青い火の上でふきこぼれる鍋の泡を見つめる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 五月の上旬……とは言ふが、まだ梅雨には入らない。けれども、ともすると卯の花くだしと称うる長雨の降る頃を、分けて其年は陽気が不順で、毎日じめ/\と雨が続いた。然も其の日は、午前の中、爪皮の高足駄、外套、雫の垂る蛇目傘、聞くも濡々としたありさまで、(まだ四十には間があるのに、壮くして世を辞した)香川と云ふ或素封家の婿であつた、此も一人の友人の、谷中天王寺に於ける其の葬を送つたのである。

「銀鼎」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

死んだやうな夜気のなかに、凝つて、ひとり活きて、卯の花をかけた友染は、被衣をもるゝ袖に似て、ひら/\と青く、其の紫に、芍薬か、牡丹か、包まれた銀の鍋も、チチと沸くのが氷の裂けるやうに響いて、ふきこぼるゝ泡は卯の花を乱した。

「銀鼎」泉鏡花(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品