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Kの昇天(梶井基次郎)のあらすじ・登場人物

月夜の影に魅せられた男

  • 心理
  • 幻想

梶井基次郎 1926年(昭和元年)10月 「青空」

文字数
5,546字
読了目安
約11分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

梶井基次郎が1926年(大正15年)、同人誌「青空」に発表した短編小説。副題は「或はKの溺死」。療養地の海岸でひと月ほど交わっただけのK君が溺死し、その死を過失か自殺かと問う遺族への返信という書簡体で語られる。「私」は、月夜に自分の影のなかに分身(ドッペルゲンゲル)を見るというK君の奇妙な話を思い起こしながら、月と影をめぐる幻想を手紙にたどっていく。澄んだ抒情と論理が溶け合う、「檸檬」と並ぶ梶井文学の名品。

あらすじ

「私」のもとに、療養地N海岸で偶然ひと月ほど親しく交わっただけのK君が溺死した、という報せの手紙が届く。それは過失だったのか、自殺だったのか、と思い悩む遺族に向けて、「私」は返信の筆をとる。ある満月の晩、病のため眠れずに浜辺へ出た「私」は、月光の下、砂浜に落ちた自分の影をひたと見つめ、奇妙な動作を繰り返すK君と出会っていた。K君は、月の光が生み出す影のなかに「もう一人の自分」――ドッペルゲンゲルを見いだし、その影法師を凝視するうちに魂がしだいに肉体を離れ、影づたいに月の世界へと昇っていく、という幻想に取り憑かれていたのだった。やがてNの地を去った「私」は、K君もまた別の満月の夜の海辺で、いつものように影を辿るうちに波にさらわれて命を落としたのだと察する。それは単なる過失でも自殺でもなく、K君の魂が月へと「昇天」した出来事なのだ――と「私」は結ぶ。月と影と分身をめぐる幻想を、澄んだ抒情と静かな論理でつづった、梶井文学のなかでも異彩を放つ書簡体の名品である。

登場人物

冒頭部(原文より)

 お手紙によりますと、あなたはK君の溺死について、それが過失だったろうか、自殺だったろうか、自殺ならば、それが何に原因しているのだろう、あるいは不治の病をはかなんで死んだのではなかろうかと様さまに思い悩んでいられるようであります。そしてわずか一と月ほどの間に、あの療養地のN海岸で偶然にも、K君と相識ったというような、一面識もない私にお手紙をくださるようになったのだと思います。私はあなたのお手紙ではじめてK君の彼地での溺死を知ったのです。私はたいそうおどろきました。と同時に「K君はとうとう月世界へ行った」と思ったのです。

「Kの昇天」梶井基次郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 K君はそれを墜落と呼んでいました。もし今度も墜落であったなら、泳ぎのできるK君です。溺れることはなかったはずです。  K君の身体は仆れると共に沖へ運ばれました。感覚はまだ蘇えりません。次の浪が浜辺へ引き摺りあげました。感覚はまだ帰りません。また沖へ引き去られ、また浜辺へ叩きつけられました。しかも魂は月の方へ昇天してゆくのです。  ついに肉体は無感覚で終わりました。干潮は十一時五十六分と記載されています。その時刻の激浪に形骸の翻弄を委ねたまま、K君の魂は月へ月へ、飛翔し去ったのであります。

「Kの昇天」梶井基次郎(青空文庫)

名文

私はあなたのお手紙ではじめてK君の彼地での溺死を知ったのです。私はたいそうおどろきました。と同時に「K君はとうとう月世界へ行った」と思ったのです。

梶井基次郎『Kの昇天』(1926年)の冒頭近く。海で溺れ死んだK君について、満月の夜の浜辺で彼と出会った「私」が手紙で語り始める。死を「月世界へ行った」と受けとめる不思議な一言が、影と魂をめぐる幻想の入口になる。

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原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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