アプリで読む

無料・登録不要

城のある町にて(梶井基次郎)のあらすじ・登場人物

妹の死を抱えて過ごす一夏

  • 心理

梶井基次郎 1925年(大正14年)2月 「青空」

文字数
17,878字
読了目安
約36分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 三重県

この作品について

1925年(大正14年)2月、同人誌『青空』に発表された梶井基次郎の小説。前年夏に姉夫婦を訪ねて三重県の松阪に滞在した経験をもとにしている。幼い妹を亡くした青年・峻が、姉の暮らす城下町で一夏を過ごす。「ある午後」「手品と花火」などの小見出しを持つ場面が連なり、城跡からの眺め、町の子供たちの声、家族との外出といった日常を写す。遠い花火が光ってから音の届くまでの間や、何気ない言葉が耳に残る感覚など、目と耳が受け取る細かな印象に文章の重心がある。大きな出来事で筋を運ぶよりも、外の風景とふと浮かぶ記憶を往復することで、峻の内面を描いていく。失った人への思いが、いつも同じ強さで意識されるわけではないことも、生活の場面のなかから伝わる。風景を見る人の心まで含めて捉えようとする、梶井初期の創作を知る一編である。

あらすじ

妹を亡くしたばかりの青年・峻は、悲しみを鎮めるため、城跡の残る町に嫁いだ姉の家を訪ね、しばらく逗留することにする。姉の家族と静かな夏の日々を過ごすうち、峻は都会の生活で摩耗していた心が少しずつ癒えてゆくのを感じ、蝉や螽斯といった虫の姿、燈火に群がる羽虫、遠くに霞む入江の眺めなど、ささやかな自然の情景に深く見入るようになる。姪の勝子や姉の義妹・信子との触れ合い、活動写真や見世物小屋の賑わいといった町の暮らしを織り交ぜながら、物語は姉が病に倒れる不安な一幕をも挟みつつ進んでゆく。夕立を待ちながら虫の音に耳を澄ます峻の姿で締めくくられる、死者への哀惜からやがて生の静けさへと至る、一夏の心の記録である。

登場人物

冒頭部(原文より)

ある午後 「高いとこの眺めは、アアッ(と咳をして)また格段でごわすな」 片手に洋傘、片手に扇子と日本手拭を持っている。頭が奇麗に禿げていて、カンカン帽子を冠っているのが、まるで栓をはめたように見える。――そんな老人が朗らかにそう言い捨てたまま峻の脇を歩いて行った。

「城のある町にて」梶井基次郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

「チン、チン」 鳴きだしたこおろぎの声にまじって、質の緻密な玉を硬度の高い金属ではじくような虫も鳴き出した。 彼はまだ熱い額を感じながら、城を越えてもう一つ夕立が来るのを待っていた。

「城のある町にて」梶井基次郎(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品