アプリで読む

無料・登録不要

挿話(徳田秋声)のあらすじ・登場人物

故郷の廓で過ごした二十日

  • 心理

徳田秋声 1925年(大正14年)1月 「中央公論」

文字数
26,552字
読了目安
約53分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 石川県

この作品について

「中央公論」1925(大正14)年1月号に発表された徳田秋声の中編。兄の病の見舞いに北国の故郷K市へ帰った作家の道太が、甥の辰之助の案内で、廓の古い茶屋の離れに二十日ばかり身を寄せる。昔なじみの姉妹お絹とおひろ、隣家の九官鳥の声、鮎料理や鯨餅、上方の名優が来る芝居見物などを通して、寂れゆく廓と故郷の町の空気が細やかに描かれる。踊り子あがりで気弱だが品のあるお絹に道太が寄せる淡い思い、姪の縁談をめぐる親族のわずらわしさ、病床の兄への気がかりが、八つの章に織り込まれる。金沢を舞台に青山真治が撮った映画『秋聲旅日記』(2003年)にも、お絹・おひろ・辰之助が登場する。

あらすじ

兄の病を見舞いに故郷のK市へ来た作家の道太は、山の事務所から町へ下り、甥の辰之助に案内されて、子供の頃から知るおひろの家に泊まることにする。廓の古い茶屋で、おひろの姉で踊り子あがりのお絹が世話を焼いていた。道太は、姉が進めた姪ふみ江の縁談がこじれていることを避けたい事情もあり、離れの二階に腰を落ち着ける。隣の九官鳥の声を聞き、鯨餅や鮎を味わい、お絹たちと夜の川端を涼み歩くうち、道太は、陽気でも陰気でもなく、意気でも野暮でもないお絹にひかれていく。お絹は大阪の息子のもとへ行くか、妹お芳とこの家を続けるかの岐路に立ち、おひろは茶人の森さんのもとへ納まりたがっていた。上方役者の芝居見物では、誰を連れて行くかでお絹が気をもむが、当日は桟敷の後ろに席が取れて辰之助も間に合う。やがて姉とふみ江が訪ねてきて、ふみ江の子の病や婚家との不和を訴え、道太は話のつけ方を指図する。大掃除の日、東京から律子が重病で入院したという電報が届き、道太は急に帰京することになる。病床の兄に別れを告げると、次の部屋で兄のすすり泣きが聞こえた。見送りに来ないと言っていたお絹は、汽車が出る直前に駅に現れ、弁当とシャボンと歯磨を窓から渡す。汽車の中で道太は、二十日ばかりの接触を振り返り、やはり彼女は謎だったと思う。

登場人物

冒頭部(原文より)

 道太が甥の辰之助と、兄の留守宅を出たのは、ちょうどその日の昼少し過ぎであった。彼は兄の病臥している山の事務所を引き揚げて、その時K市のステーションへ著いたばかりであったが、旅行先から急電によって、兄の見舞いに来たので、ほんの一二枚の著替えしかもっていなかったところから、病気が長引くとみて、必要なものだけひと鞄東京の宅から送らせて、当分この町に滞在するつもりであったが、嫂も看護に行っていて、留守宅には女中が二人いるきりなので、どこぞほかに宿を取ろうという算段であった。

「挿話」徳田秋声(青空文庫)

末尾部(原文より)

 汽車が出てしまった。いくら心配しても、それだけの時間は、飛躍を許さないので、道太は朝まではどうかして工合よく眠ろうと思って、寝る用意にかかったが、まだ宵の口なので、ボーイは容易に仕度をしてくれそうになかった。  道太は少しずつ落ち著いてくると同時に、気持がくすぐったくなってきた。二十日ばかりのお絹との接触点を振り返えると、今でもやっぱり彼女は謎であった。

「挿話」徳田秋声(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品