あらくれ(徳田秋声)のあらすじ・登場人物
男を渡り歩く勝気な女の半生
- 心理
- 社会
- 文字数
- 119,564字
- 読了目安
- 約3時間59分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
徳田秋声の代表作の一つで、一人の女の生涯を描いた長編小説。1915年(大正4年)1月から7月にかけて「読売新聞」に連載され、同年9月に新潮社より刊行された。養家での結婚を拒んで家を飛び出した勝気な女・お島が、幾度もの結婚と離別を重ねながらたくましく生き抜いていく姿を、感傷を排した写実的な筆致で描く。夏目漱石が「現実味はこれかと思わせられる」と評した、自然主義文学の代表作の一つである。
あらすじ
養家に育てられたお島は、十八の年、養親から従兄弟にあたる男を婿に迎えるとほのめかされるが、男嫌いで気の強い彼女はこれを嫌って家を飛び出す。上京したお島は結婚と離別を繰り返しながら各地を渡り歩き、持ち前の負けん気と働き者の気性で苦難を乗り越えていく。やがて仕立物を商う順吉と所帯を持ったお島は、順吉とともに店を大きくしていくが、その満たされぬ心はなお安まることがない。腕のよい若い職人に心を動かされたお島は、順吉が留守にした隙に、その職人へ思いのままに話しかけるのだった。
登場人物
- お島 養家を飛び出し、幾度もの結婚と離別を重ねながらたくましく生きる本作の主人公
- 順吉 お島の夫。仕立物商を営む
- 若い職人 順吉の店に雇われた腕のよい職人。お島が心を動かされる相手
冒頭部(原文より)
お島が養親の口から、近いうちに自分に入婿の来るよしをほのめかされた時に、彼女の頭脳には、まだ何等の分明した考えも起って来なかった。十八になったお島は、その頃その界隈で男嫌いという評判を立てられていた。そんなことをしずとも、町屋の娘と同じに、裁縫やお琴の稽古でもしていれば、立派に年頃の綺麗な娘で通して行かれる養家の家柄ではあったが、手頭などの器用に産れついていない彼女は、じっと部屋のなかに坐っているようなことは余り好まなかったので、稚いおりから善く外へ出て田畑の土を弄ったり、若い男たちと一緒に、田植に出たり、稲刈に働いたりした。
「あらくれ」徳田秋声(青空文庫)
末尾部(原文より)
「こんな時に、私も保養をしてやりましょうと思って。でも、一人じゃつまらないからね」お島は燥いだような気持で、いつになく身綺麗にして来た若い職人や、お島の放縦な調子におずおずしている順吉に話しかけた。「医者に勧められて湯治に来たといえば、それで済むんだよ。事によったら、上さんあの店を出て、この人に裁をやってもらって、独立でやるかも知れないよ」お島は順吉にそうも言って、この頃考えている自分の企画をほのめかした。
「あらくれ」徳田秋声(青空文庫)
名文
お島が養親の口から、近いうちに自分に入婿の来るよしをほのめかされた時に、彼女の頭脳には、まだ何等の分明した考えも起って来なかった。
意のままにならぬ縁談から始まる書き出し。境遇に流されず働き続ける女お島を描いた、自然主義文学の到達点。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。