逆徒(平出修)のあらすじ・登場人物
判決の日の法廷を描く
- 社会
- 心理
- 文字数
- 21,198字
- 読了目安
- 約42分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
- 大阪府
この作品について
明治末、大逆事件を題材に、判決言渡しの日の法廷を一人の若い弁護人の目から描いた小説。被告席には、耳が遠く気の弱い大阪の三村保三郎や、ただ一人の女性被告・真野すゞ子らが並ぶ。拘引後の厳しい取調べ、公判での陳述、そして言渡しを迎えた法廷の空気が、冷静な筆致で綴られる。事件の弁護人も務めた作者が、国家の裁きと人間の弱さを見つめた問題作で、文中には伏せ字が残る。
あらすじ
判決の言渡しの日、法廷では長い判決理由が読み上げられていく。裁判長は表情も声も平板な半白の老人で、被告の訴えを一々聞き取りながらも、事件を一つのものとして処理することしか考えていないように見える。被告は三十人に近いが、秋山亨一、真野すゞ子ら四五人を除く大多数は、拘引されたこと自体が意想外だった。その一人、大阪の三村保三郎は耳が遠く気の弱い男で、取調べで自白したことを公判で泣きながら悔やむ。彼は護送の途中、残った一円六十五銭で洋食を食べてから死のうと考え、看守長に止められたという珍妙な話までして、法廷の笑いを誘う。法廷の日、傍聴席には学生や労働者ふうの屈強な人々が詰め、警官と憲兵が厳重に警戒している。この事件の弁護を担う若い弁護人は、五六行読み進められたところで、判決の行方を悟ってしまう。主文が読み上げられると、三人を除く二十幾人が死刑と告げられる。裁判官はすぐに席を立ち、弁護人はそれを人情の表れと見ようとする。女性被告の真野すゞ子は最後の陳述で、自分たち四人の計画に無関係な人々を助けてほしいと訴えたうえ、「皆さん左様なら」と言い残して退廷する。すると三村保三郎を先頭に、全被告が声を合わせて叫び出す。弁護人は、この叫びを判決への不満の噴出と解し、自分の担当する被告に「落付いていろ。世の中は判決ばかりぢやないんだから」と声をかける。記者に判決の効力を問われた彼は、判決は確定して執行されるべきだと論じながら、電信所へ行き、被告の家族に宛てて「シケイヲセンコクサレタ」と書く。そして迷った末に「シカシキヅカイスルナ」と書き加え、自分は判決の威信を蔑視した第一の人だと心の中で叫ぶ。
登場人物
- 若い弁護人 被告の弁護を担当する青年。判決に疑念を抱きつつ、家族への電報に「キヅカイスルナ」と書き加える
- 秋山亨一 首謀者と認定される被告
- 真野すゞ子 ただ一人の女性被告。最後の陳述で、無関係な人々の助命を訴える
- 三村保三郎 大阪の被告。耳が遠く気が弱く、取調べの自白を悔やんで泣く
- 神谷太郎吉 被告の一人(拘留審問を受けた四人のうち)
- 古山貞雄 被告の一人(拘留審問を受けた四人のうち)
- 外山直堂 僧籍を剥奪された被告。法廷では投げやりな態度をとる
- 宮部 看守長。三村の自殺を止めたとされる
- 裁判長 半白の老人。表情も声も平板で、事件を一つの単位として処理する
冒頭部(原文より)
判決の理由は長い長いものであつた。それもその筈であつた。之を約めてしまへば僅か四人か五人かの犯罪事案である。共謀で或る一つの目的に向つて計画した事案と見るならば、むしろこの少数に対する裁判と、その余の多数者に対する裁判とを別々に処理するのが適当であつたかもしれない。
「逆徒」平出修(青空文庫)
末尾部(原文より)
「俺は判決の威信を蔑視した第一の人である。」
「逆徒」平出修(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。