禰宜様宮田(宮本百合子)のあらすじ・登場人物
無口で善良な農夫と町の呉服屋
- 社会
- 心理
- 文字数
- 34,574字
- 読了目安
- 約1時間9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 福島県
この作品について
宮本百合子(当時は中條百合子)が1917年(大正6年)7月の「中央公論」に発表した小説。前年の暮れから福島県の飯坂に滞在して取材したことをもとに書かれた。主人公は、神主の家柄ながら「からきし埒がない」として禰宜様宮田とあだ名される、無口で人のよい東北の農民。吾妻富士を望む沼のほとりで釣りをしていた宮田が、溺れかけた町の大きな呉服屋海老屋の若者を救い上げるところから物語が動き出す。土地の言葉による会話と、作品の多くを占める自然描写のなかに、農村の貧しさと、町で勢いを伸ばす商家との関わりを描く。初期の『貧しき人々の群』に続く農民ものの一作である。
あらすじ
禰宜の家柄ながら埒のない男として禰宜様宮田とあだ名される無口な農民は、沼で溺れかけていた町の呉服屋海老屋の若者を救い上げ、生まれて初めての歓喜を味わう。だが仲間の百姓たちは若者の財布と銀時計をこっそり隠してしまい、宮田は誰にも気づかれないように帰る。翌日、海老屋に呼ばれた宮田は、家を取り仕切る先代の未亡人から差し出された礼金の包みを、心に済まないと辞退する。妻のお石は激しく怒り、家には気まずい日が続く。
宮田の気弱さに目をつけた隠居は「いい思案」を立てる。番頭を何度も遣わしたあげく、礼を受けないのは若旦那を自分で突き落としたからではないかと疑いをかけ、訴えるとほのめかして、日当たりの悪い荒れ田の小作を押しつける。宮田は骨身を削って耕すが、長雨や虫害で実らず、小作料を負けてもらうたびに証文の借金が嵩んでいく。
五年目の大不作で、海老屋は利子をつけた借金の全額返済を迫り、払えなければ土地を差し押さえるという。お石は藁人形で隠居を呪おうとして泣き崩れ、宮田は白土運びの人足になる。十六と十三の娘たちは紡績工場へ年季奉公に出て、宮田はその前借りの金に手をつけるなとお石に言い渡す。温泉への新道の工事人夫となった宮田は、仲間に使われながら黙々と働くが、工事の終わり近い暖かい日、カーブの陰で横になっていたところを、勾配で勢いのついたローラーにひかれて死ぬ。畑も家も海老屋に取り上げられ、お石は行商に出て、九つの六は独りで山や川を歩きまわる。ある日、新しくできた索道の椅子に乗せてもらった六は、空を飛ぶ思いに有頂天になって身を乗り出し、真下の森へ落ちていった。
登場人物
- 禰宜様宮田 禰宜の家柄の農民。無口で人がよく、町の若者の命を救う
- お石 宮田の妻。桑や麦の売り買いを一手に引き受ける勝ち気な女
- まき・さだ 宮田の娘たち
- 六 宮田の幼い息子
- 海老屋の隠居 町で勢いを伸ばす呉服屋海老屋の先代の未亡人。商売も果樹園も取り仕切る
- 海老屋の番頭 隠居の使いとして宮田の家に通う
冒頭部(原文より)
春になってから沼の水はグッとふえた。 この間までは皆むき出しになって、うすら寒い風に吹き曝されていた岸の浅瀬も、今はもうやや濁ってはいるがしとやかな水色にすっかり被われて明るい日光がチラチラと、軽く水面に躍っている。
「禰宜様宮田」宮本百合子(青空文庫)
末尾部(原文より)
六は急に飛びたくなった。飛びたく。 あの雲の峯、あの…… 彼は思わず前へのめった。瞬間椅子は重心を失った。 オミョオミョワラーー――ン…… 天地中が隅から隅まで、一どきに鳴り渡ると感じる間もなく、六の体は太陽の火粉のように、真下の森へ向って落ちて行った。……
「禰宜様宮田」宮本百合子(青空文庫)
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