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若杉裁判長(菊池寛)のあらすじ・登場人物

寛大で知られる名裁判長

  • 社会
  • 心理

菊池寛 1918年(大正7年)

文字数
10,238字
読了目安
約20分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

菊池寛が大正半ばに発表した短編。ある地方都市の地方裁判所で刑事部の裁判長をつとめる若杉浩三は、若いころ熱心なキリスト教徒で、信仰は忘れても罪人への深い同情だけは残っていた。被告が少しでも悔いていれば検事があきれるほど寛大な判決を下し、執行猶予を活かした人情味ある裁きで、市民から名裁判長とたたえられている。作品の前半は、哲学を志した高校生がなぜ法科へ転じ、弁護士ではなく司法官になったのかという若杉の経歴の説明にあてられ、刑事の横暴を目撃して義憤を覚えた体験も語られる。後半は、市内で起きた「中学生のジゴマ」事件の公判を軸に進む。理想を抱いた裁判官の心の動きを、語りかける口調でたどる。

あらすじ

若杉裁判長は若いころの信仰の名残から罪人に深く同情し、判決は寛大にすぎるほどだった。高校時代、無実の青年を縛って連れ去る刑事の横暴を見て義憤を覚え、尊敬する同窓生にならって法科に転じ、司法官になったのである。父に打ってかかった兄を殴り殺した弟に執行猶予をつけた裁判などで、名裁判長の評判は頂点に達した。そのころ、市内で「中学生のジゴマ」事件が起こる。級長の優等生が富豪に脅迫状を送り、癇癪玉を投げ、指定した鳥居の下で金の包みを取ろうとして捕まったのである。若杉は公判で少年に同情し、自分の少年時代の林檎畑の冒険を思い出して、執行猶予を与えるつもりでいた。新聞も執行猶予を確実と報じた。ところが判決の三日前の夜、若杉の家に泥棒が入る。産後間もない妻と幼い三人の子を気づかい、若杉は大声を出して泥棒を追い払うが、驚いた妻は高熱を出して命を危ぶまれ、子供たちは物に怯えるようになった。若杉は初めて罪が被害者に及ぼす恐ろしさを骨身にしみて感じ、これまでの罪悪観が根底から揺らぐ。月曜日、蒼白な顔の若杉は少年に禁錮一年を言い渡し、執行猶予をつけないまま退廷した。

登場人物

冒頭部(原文より)

 △△△地方裁判所の、刑事部の裁判長をしている、判事若杉浩三氏は若い時、かなり敬虔なクリスチャンでありました。  が、普通クリスチャンの青年が、社会に出てしまうと、まるきり物忘れをしたように、けろりとクリスチャンでなくなるように、若杉さんも、いつの間にか、青年時代の信仰をどこかへ置き忘れていました。

「若杉裁判長」菊池寛(青空文庫)

末尾部(原文より)

 が、当日に限って、裁判長は少し蒼白な顔をしていました。そして判決文も、いつものように朗々とは響きませんでした。 「被告何某を禁錮一年に処す」という主文の宣告があった後、いくら待っても、執行猶予の言い渡しが続きませんでした。被告の顔にも、傍聴人の顔にも、深い失望の色が浮びました。  が、若杉裁判長は、そんなことには一向頓着がないように、理由書の朗読が終ると、ドアを排してさっさと退席してしまいました。

「若杉裁判長」菊池寛(青空文庫)

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