屋上の狂人(菊池寛)のあらすじ・登場人物
兄さんは、あのままで幸福なんや
- 家族
- 心理
- 文字数
- 7,649字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 香川県
この作品について
屋根の上に座って海を眺めつづける「狂人」の兄と、それを見守る賢い弟。菊池寛が学生時代に書いた一幕物で、幸福とは何かを鋭く問いかける。祈祷師を呼んで治そうとする両親と、兄をそのままにしておこうとする弟の対立が、金色の夕日のなかで静かな結論を迎える。
あらすじ
明治三十年代、瀬戸内海の讃岐に属する島。この島では屈指の財産家である勝島家の裏庭が舞台である。長男の義太郎は二十四歳。幼いころ屋根から落ちて以来、心を病んだとされ、毎日のように屋根の頂上に座って海を眺めている。父の義助は下男に降ろさせようとするが、義太郎は聞かない。彼には空の雲の中に金色の御殿が見え、笛の音が聞こえるのだ。父と母は、この長男をなんとか治そうと、本土から巫女と称する女を呼び寄せる。加持祈祷が始まり、義太郎は屋根から引きずり降ろされ、燻べられ、責め立てられる。そこへ、十七歳の中学生である弟の末次郎が帰ってくる。末次郎は巫女を追い返し、両親に食ってかかった。兄は屋根の上にいるときがいちばん幸福なのだ、それを無理に「治す」ことに何の意味があるのか、と。世間体を気にする父と母に対して、末次郎は兄の見ている世界の側に立つ。巫女は追い払われ、両親は母屋へ引きあげてゆく。雲を離れた金色の夕日が屋根一面に射しかかるなか、義太郎が弟に呼びかける。「末、見いや、向うの雲の中に金色の御殿が見えるやろ。ほらちょっと見い! 奇麗やなあ」。末次郎は「ああ見える。ええなあ」と答える。狂せる兄は屋上に、賢き弟は地上に、ともに金色の夕日を見つめて幕となる。
登場人物
- 勝島義太郎 屋根の上で海を眺めつづける長男
- 末次郎 その弟。十七歳の中学生
- 義助・およし 義太郎の両親
- 巫女と称する女 加持祈祷にやってくる
冒頭部(原文より)
人物 狂人 勝島義太郎 二十四歳 その弟 末次郎 十七歳の中学生 所 瀬戸内海の讃岐に属する島 義助 (姿は見えないで)義め、また屋根へ上っとるんやな。こなにかんかん照っとるのに、暑気するがなあ。
「屋上の狂人」菊池寛(青空文庫)
末尾部(原文より)
義太郎 (歓喜の状態で)ほら! 御殿の中から、俺の大好きな笛の音がきこえて来るぜ! ええ音色やなあ。 (父母は母屋の中にはいってしまって、狂せる兄は屋上に、賢き弟は地上に、共に金色の夕日を見つめている) ――幕――
「屋上の狂人」菊池寛(青空文庫)
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