鱧の皮(上司小剣)のあらすじ・登場人物
鱧の皮を御送り下されたく候
- 家族
- 心理
- 文字数
- 14,279字
- 読了目安
- 約29分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 大阪府
この作品について
1914年(大正3年)、「ホトトギス」に発表された上司小剣の代表作。田山花袋に激賞されて作者の名を高めた。道頓堀の鰻屋「讃岐屋」を一人で切り盛りする女将お文のもとへ、家出して東京にいる婿養子の夫・福造から分厚い手紙が届く。金を送れ、そして最後の一行に「鱧の皮を御送り下されたく候」。叔父の源太郎とともに夫の身勝手を並べ立てながらも、その夜お文がしたことは——。大阪の商家の空気と、割り切れない夫婦の情を、饒舌な大阪ことばで写し取った一編である。
あらすじ
道頓堀の鰻屋「讃岐屋」の銀場に座るお文のもとへ、赤い印紙を二枚貼った分厚い封書が届いた。差出人の名はないが、手蹟には見覚えがある。東京へ家出したきりの夫・福造からだ。宛名の「福島磯」は、姓名判断好きの叔父・源太郎がつけた新しい名で、それを夫が知っていることが不思議でならない。開けるのが怖いというお文に代わって、源太郎が蝋燭の灯で長い手紙を読む。病気で困っているから二十円送れ、子供はどうしている、今度こそ懲りたから元の鞘へ収まりたい——読まずとも分かっている文句が並んでいた。福造の借金はこれで三千円になる。高価い養子やなあ、と源太郎は皮肉る。二十八人の雇人を使い、目を配りながら客をさばくお文は、他人事のような調子で相槌を打ち続けた。そして手紙の一番終りの小さな字に、源太郎は笑い出す。「鱧の皮を御送り下されたく候」。それは福造の何よりの好物なのだった。その夜更け、叔父と法善寺裏で酒を飲み、東京へ行って話をつけてこようかと言い出したお文は、家へ帰る道すがら、まだ起きていた蒲鉾屋に寄るのである。
登場人物
- お文(福島磯) 道頓堀の鰻屋「讃岐屋」を切り盛りする三十六の女将。夫に家出されたまま店を守っている
- 福造 お文の婿養子の夫。東京へ家出し、借金を重ねながら無心の手紙を寄こす
- 源太郎 お文の叔父。姓名判断が好きで、福造の身勝手を並べ立てる
- お梶 お文の母。堺の大浜に隠居して三人の孫を育てている
冒頭部(原文より)
一 郵便配達が巡査のやうな靴音をさして入つて来た。 「福島磯……といふ人が居ますか。」 彼は焦々した調子でかう言つて、束になつた葉書や手紙の中から、赤い印紙を二枚貼つた封の厚いのを取り出した。 道頓堀の夜景は丁どこれから、といふ時刻で、筋向うの芝居は幕間になつたらしく、讃岐屋の店は一時に立て込んで、二階からの通し物や、芝居の本家や前茶屋からの出前で、銀場も板場もテンテコ舞をする程であつた。
「鱧の皮」上司小剣(青空文庫)
末尾部(原文より)
まだブツ/\言ひながら、表の戸締をして、鍵を例ものやうに懐中深く捻ぢ込んだお文は、今しがた銀場の下へ入れた鱧の皮の小包を一寸撫でて見て、それから自分も寝支度にかゝつた。
「鱧の皮」上司小剣(青空文庫)
原文を読む
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