行人(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
妻の心さえ信じられぬ孤独
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- 心理
- 家族
- 文字数
- 224,701字
- 読了目安
- 約7時間29分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
- 和歌山県
この作品について
1912年(大正元年)12月から翌年11月まで、病気による休載を挟んで朝日新聞に連載された夏目漱石の長編。『彼岸過迄』『こころ』とともに後期三部作に数えられる。語り手の二郎は友人との旅行を約束して大阪へ赴き、母の遠縁に当たる岡田の家を訪ねる。昔の掛け軸をからかい合う気安い会話の一方で、親類同士でさえ、互いの事情を詳しくは知らない様子が語られる。四章から成る物語は、人とのつながりをめぐる小さな行き違いを拾いながら、学者である兄・一郎の孤独や、家庭のなかの心の隔たりへ焦点を寄せていく。二郎の語りは、人の表情や仕草を捉えると同時に、自分には分からないことも繰り返し記す。身近な者の心を知りたいという願いと、それを確かめきれない不安が、この語り方を通して伝わる。連載は1913年4月から9月まで中断し、翌年1月に大倉書店から単行本となった。
あらすじ
二郎は大阪で友人と落ち合うはずが、母と兄夫婦を交えた関西旅行に変わる。兄の一郎は学者肌の神経質な男で、妻・直の心が自分に無いと疑い、和歌の浦の宿から二郎を紀三井寺へ連れ出して「直の節操を試してほしい」と打ち明ける。やむなく二郎は直と二人で和歌山に出かけるが、暴風雨のため宿に一泊する羽目になり、かえって兄の疑念は深まる。東京に戻ってからも一郎の懊悩は激しさを増し、家族は腫れ物に触るように暮らす。何を考えているのか掴ませない直と、妻の心を絶対に手に入れようとして果たせない一郎。見かねた二郎は家を出て下宿し、兄を旅行に連れ出してくれるよう友人のHさんに頼む。物語の末尾は旅先のHさんからの長い手紙で結ばれる。そこには「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか」とまで思い詰めながら、絶対の境地を求めてもがく一郎の姿が、痛ましくも真面目な魂の記録として綴られていた。
登場人物
- 長野二郎 語り手。兄夫婦の間で板挟みになる次男
- 長野一郎 二郎の兄。妻の心すら信じられずに苦悩する学者
- 直(お直) 一郎の妻。何を考えているのか掴ませない静かな女
- Hさん 一郎の友人。旅先から長い手紙で一郎の様子を伝える
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 友達──大阪の病院と三沢の告白
- 五 兄──和歌の浦と「直の節操を試してくれ」
- 六 兄──嵐の夜の和歌山
- 七 帰ってから──女景清の話と「馬鹿野郎」
- 八 帰ってから──家を出る、お貞の結婚
- 九 塵労──嫂の来訪と兄の旅立ち
- 十 塵労──Hさんの手紙
- 十一 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
梅田の停車場を下りるや否や自分は母からいいつけられた通り、すぐ俥を雇って岡田の家に馳けさせた。岡田は母方の遠縁に当る男であった。自分は彼がはたして母の何に当るかを知らずにただ疎い親類とばかり覚えていた。
「行人」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
私がこの手紙を書き始めた時、兄さんはぐうぐう寝ていました。この手紙を書き終る今もまたぐうぐう寝ています。私は偶然兄さんの寝ている時に書き出して、偶然兄さんの寝ている時に書き終る私を妙に考えます。兄さんがこの眠から永久覚めなかったらさぞ幸福だろうという気がどこかでします。同時にもしこの眠から永久覚めなかったらさぞ悲しいだろうという気もどこかでします。
「行人」夏目漱石(青空文庫)
名文
「死ぬか、気が違うか、それでなければ宗教に入るか。僕の前途にはこの三つのものしかない」
友人Hさんの長い手紙に記された、一郎の苦悩の告白。自我の孤独に追いつめられた知識人の行き場のなさを、三つの道の提示で示す名高い一節。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。