子規の画(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
子規が描いた一輪の東菊
- 文字数
- 1,636字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
亡き友正岡子規が漱石に宛てて描いた、東菊を活けた一枚の画を取り出して眺めた随筆。拙いが真面目な画から、子規という人間と文学者に「拙」が欠けていたことに思い至る。短い文章に、親友への追想が込められている。
あらすじ
漱石はたった一枚持っている子規の画を、長いあいだ袋に入れたままにしていた。転居で失うのを恐れ、子規の最後の手紙と年月のわからない短い手紙とともに、三つを掛け軸に表装させる。画は一輪の東菊を花瓶に挿しただけの単純なもので、「下手いのは病気の所為だと思い玉え」という註釈と歌が添えてあり、熊本にいる漱石に送られた。色は三色、葉は九枚、周囲が白く表装の絹は寒い藍で、冷たい淋しさがある。わずか三茎の花に五六時間をかけ、丹念に塗られているのが、俳句や歌を軽々と作る子規には矛盾に見える。画に初心だった子規は、写生を俳句のようにやすやすとはできず、堅くなってしまったのだと推測する。虚子がうまいと言ったのに、漱石は愚直な旨さだと答えた。子規は人間としても文学者としても最も「拙」の欠乏した男で、その拙を笑う機会も惚れ込む機会もなかったが、没後十年近く経って、この画にそれを見つけた。ただ淋しい画だと結ぶ。
冒頭部(原文より)
余は子規の描いた画をたった一枚持っている。亡友の記念だと思って長い間それを袋の中に入れてしまっておいた。年数の経つに伴れて、ある時はまるで袋の所在を忘れて打ち過ぎる事も多かった。
「子規の画」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
彼の歿後ほとんど十年になろうとする今日、彼のわざわざ余のために描いた一輪の東菊の中に、確にこの一拙字を認める事のできたのは、その結果が余をして失笑せしむると、感服せしむるとに論なく、余にとっては多大の興味がある。ただ画がいかにも淋しい。でき得るならば、子規にこの拙な所をもう少し雄大に発揮させて、淋しさの償としたかった。
「子規の画」夏目漱石(青空文庫)
名文
東菊によって代表された子規の画は、拙くてかつ真面目である。
漱石が亡友子規の描いた東菊の画を評した随筆『子規の画』の一節。筆の立つ子規が絵では堅くなる様子を、親しみをこめて語る。
子規は人間として、また文学者として、最も「拙」の欠乏した男であった。
生前の子規に「拙」を見たことがなかった漱石が、一輪の東菊の画に初めてそれを認める。亡友への情愛がにじむ一文。
原文を読む
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