余と万年筆(夏目漱石)のあらすじ・登場人物
万年筆が売れるわけを考える
- 文字数
- 2,776字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
丸善で一日に万年筆が百本ほども売れるという話を出発点に、万年筆がなぜ売れるのかを考察した随筆。蒐集癖のある道楽と実用の需要とを区別し、筆を執る人にとって万年筆が必要になった時代を描く。漱石が使っていたペリカンの万年筆への不満や、贈られたオノトへの乗り換えも語られる。
あらすじ
丸善の店で一日に万年筆は何本売れるかと、漱石が友人の内田魯庵に尋ねると、多い日は百本ほどだと言う。十三年前に一本買って今日まで使っていた人の話を聞き、普通なら六七年は持つ万年筆がそれほど売れるのは、需要者が急に広がった証拠だと考える。煙管や盃を集める蒐集狂のように、万年筆を道楽で何本も揃える人は日本ではまだ少ない。最上等は三百円もし、ふつうは十円ほどの品が日に百本も売れるのは、贅沢品として愛玩されるのではなく、座右に欠かせない実用品として重宝されるからだろうと漱石は見る。ただし自分は、ペリカンの万年筆に手古摺って、いっそ全廃しようとしたとき、毛筆とペンでは不便が多いことを痛感した。魯庵がわざわざ贈ってくれたオノトでこの原稿を書いたところ、すらすら書けて愉快だった。ペリカンを追い出して、その姉妹のオノトを迎え入れ、万年筆に対する罪滅ぼしをした気持ちで結ぶ。
冒頭部(原文より)
此間魯庵君に会った時、丸善の店で一日に万年筆が何本位売れるだろうと尋ねたら、魯庵君は多い時は百本位出るそうだと答えた。夫では一本の万年筆がどの位長く使えるだろうと聞いたら、此間横浜のもので、ペンはまだ可なりだが、軸が減ったから軸丈易えて呉れと云って持って来たのがあるが、此人は十三年前に一本買ったぎりで、其一本を今日まで絶えず使用していたのだというから、是がまあ一番長い例らしいと話した。
「余と万年筆」夏目漱石(青空文庫)
末尾部(原文より)
現に此原稿は魯庵君が使って見ろといってわざわざ贈って呉れたオノトで書いたのであるが、大変心持よくすらすら書けて愉快であった。ペリカンを追い出した余は其姉妹に当るオノトを新らしく迎え入れて、それで万年筆に対して幾分か罪亡ぼしをした積なのである。
「余と万年筆」夏目漱石(青空文庫)
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