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蛇(森鴎外)のあらすじ・登場人物

夜の屋敷に響く女の声

  • 心理
  • 家族

森鴎外 1911年(明治44年)1月 「中央公論」

文字数
11,074字
読了目安
約22分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 長野県

この作品について

1911年(明治44年)1月の「中央公論」に発表された短編。信州の山間の駅の旧家に、県庁の指図で泊まることになった学者の「己」が、奥から絶え間なく聞こえる女の声に気づき、世話をする老いた奉公人の口から、その家に起きたことを聞く。語りの大半は老奉公人と主人の長い話で、嫁と姑のあいだの沈黙の歳月が明かされていく。怪異めいた発端を、学者が理屈で受け止めるという対比の構成になっている。

あらすじ

夏の夜、信州の山の中の駅で、県庁の指図により穂積という旧家に泊まることになった学者の「己」は、奥から女がしゃべり続ける声が聞こえるのが気になる。挨拶に来た老奉公人の清吉に尋ねると、主人の母が亡くなって明日で二七日になり、病人もいるという。清吉は、先代に仕えて以来の穂積家の歴史を語る。体の弱い今の主人千足は、東京で学んだのち、土地の旧家の娘お豊を妻に迎えたが、新妻は姑の話を偽善と嫌って食事の席から逃げ、家は十数年にわたり言葉の少ない家になった。そこへ主人本人が現れ、母に寂しい思いをさせたまま死なせたことを悔やむ。初七日の晩、お豊は仏壇に大きな蛇がとぐろを巻いているのを見て倒れ、以来、狂ったようにしゃべり続けるのだという。「己」は仏間へ行き、蛇を調べて、米蔵から出てきた青大将が元の棲み家へ戻っただけだと説明し、蛇を捕まえて持ち帰る。翌朝発つ前に、妻を精神病の専門家に診せるよう勧める。

登場人物

冒頭部(原文より)

 明け易い夏の夜に、なんだってこんなそうぞうしい家に泊り合わせたことかと思って、己はうるさく頬のあたりに飛んで来る蚊を逐いながら、二間の縁側から、せせこましく石を据えて、いろいろな木を植え込んである奥の小庭を、ぼんやり眺めている。  座布団の傍に蚊遣の土器が置いてあって、青い烟が器に穿ってある穴から、絶えず立ち昇って、風のない縁側で渦巻いて、身のまわりを繞っているのに、蚊がうるさく顔へ来る。夕飯の饌に附けてあった、厭な酒を二三杯飲んだので、息が酒の香がするからだろうかと思う。飲まなければ好かったに、咽が乾いていたもんだから、つい飲んだのを後悔する。

「蛇」森鴎外(青空文庫)

末尾部(原文より)

 己は蛇の尾をしっかり攫んで、ずるずると引き出して、ちゅうに吊るした。蛇は頭を持ち上げて自分の体を縄を綯ったように巻いたが、手までは届かない。己は蛇を畚に入れて蓋をした。  丁度時計が十二時を打った。  翌朝立つ前に、己は主人の妻をどんな医者が見ているかと問うてみると、長野から呼んだのも、精神病専門の人ではないと云った。己はこれ程の大家の事であるから、是非東京から専門家を呼んで見せるが好いと勧告して置いた。

「蛇」森鴎外(青空文庫)

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