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うたかたの記(森鴎外)のあらすじ・登場人物

ミュンヘンの画学生と花売り娘

  • 恋愛
  • 心理

森鴎外 1890年(明治23年)8月 「しがらみ草紙」

文字数
15,331字
読了目安
約31分
表記
新字旧仮名
種別
小説

この作品について

森鴎外がドイツ留学の体験をもとに書き、1890年(明治23年)に「しがらみ草紙」へ発表した短編小説。「舞姫」「文づかひ」と並ぶ〈独逸三部作〉の一編である。ミュンヘンの美術学校に学ぶ日本人画学生・巨勢と、美しい花売りの娘マリイの出会いを、幻想と抒情に彩られた格調高い雅文体で描く。マリイの生い立ちには、狂気の噂も高いバイエルン国王ルウドヰヒ二世の影が差している。鴎外初期の浪漫的な名品。

あらすじ

ミュンヘンの美術学校に学ぶ日本人画学生・巨勢は、街で見かけた美しい花売りの娘マリイに心を惹かれる。美術学校でモデルもつとめるこの娘には、数奇な生い立ちがあった。マリイの亡き母は、かつて狂気の噂も高いバイエルン国王ルウドヰヒ二世に見初められた村の娘で、マリイはその母に生き写しなのだという。巨勢とマリイは、互いに惹かれ合いながら、王家にまつわる悲しい因縁の影を宿していく。ある日、二人がシュタルンベルヒ湖のほとりへ遊びに出たその日、湖では、王位を追われ幽閉されていた国王ルウドヰヒ二世が、侍医とともに水に溺れて謎の死を遂げるという大事件が起こる。国王横死の騒ぎに世間が沸き返るなか、同じ湖で、漁師ハンスルの娘――すなわちマリイもまた、ひっそりと溺れて命を落としていた。だが、王の死の噂にかき消されて、彼女の死に心をとめる者は誰もいなかった。恋人を失った巨勢は、アトリエの「ロオレライ」の絵の下に、痩せ衰えて跪くのだった。幻想と抒情に彩られた雅文体で、若き芸術家の悲恋と、狂王の悲劇とを重ね合わせて描いた、鴎外初期の名品である。

登場人物

冒頭部(原文より)

上  幾頭の獅子の挽ける車の上に、勢よく突立ちたる、女神バワリアの像は、先王ルウドヰヒ第一世がこの凱旋門に据ゑさせしなりといふ。その下よりルウドヰヒ町を左に折れたる処に、トリエント産の大理石にて築きおこしたるおほいへあり。これバワリアの首府に名高き見ものなる美術学校なり。

「うたかたの記」森鴎外(青空文庫)

末尾部(原文より)

 六月十五日の朝、王の柩のベルヒ城より、真夜中に府に遷されしを迎へて帰りし、美術学校の生徒が「カッフェエ・ミネルワ」に引上げし時、エキステルはもしやと思ひて、巨勢が「アトリエ」に入りて見しに、彼はこの三日がほどに相貌変りて、著るく痩せたる如く、「ロオレライ」の図の下に跪きてぞゐたりける。  国王の横死の噂に掩はれて、レオニに近き漁師ハンスルが娘一人、おなじ時に溺れぬといふこと、問ふ人もなくて已みぬ。

「うたかたの記」森鴎外(青空文庫)

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