三人妻(尾崎紅葉)のあらすじ・登場人物
大富豪と三人の妾の色と欲
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 138,924字
- 読了目安
- 約4時間38分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
尾崎紅葉が1892年(明治25)に読売新聞へ連載した、前編・後編からなる長編小説。紅葉の代表作の一つで、雅俗折衷の文体で書かれている。加賀の貧しい農家の出から一代で日本屈指の富豪となった葛城余五郎は、金の力と策略で、柳橋の芸者、素人の娘、琴の師匠と次々に女を手に入れ、三人の妾を囲うことになる。金で何でも買えると信じる男の欲と、正妻と妾たちの嫉妬や駆け引きを、世態風俗の細かな描写と洒落や諧謔を交えて描く。本書は博文館『紅葉全集』第三巻(1912年。初版は1904年)に収める本文を、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて校正したもので、青空文庫には無い。ルビは底本のものを可能な限り残した。
あらすじ
日本屈指の富豪・葛城余五郎は、加賀の貧しい農家の次男から鉱山師の下働きを経て身代を築いた男。妻の麻子は、かつて湯島天神の矢場で「蜘蛛のお重」と呼ばれた女である。金で叶わぬことのなくなった余五郎は、手代の山瀬から柳橋一の芸者・才蔵の噂を聞いて口説かせるが、才蔵には菊住という恋人があり、少しもなびかない。余五郎は二人の仲を裂く策を立て、芸者の小〆に金を使わせて菊住を誘わせ、才蔵を熱海へ湯治に連れ出して留守にする。帰京した才蔵は待合で菊住と小〆の密会を目にし、怒りを胸に収める。菊住の未練を冷たく突き放した才蔵は、余五郎の身請を受け、向島の新宅に、浮気を見張る老武士の用心番を付けて囲われる。三月余りで才蔵に飽きた余五郎は、紳商・雪村素六の別荘で十二人の女に酌をさせる遊びに通い、酌をする築地の煎餅屋の娘お角に夢中になり、彼女の方も妾の座を狙っている。妊娠を口実にした身請を素六に断られると、お角を連れ出して深川に囲い、紅梅と名を改めさせる。さらに亡母の法事で帰った金沢で堅気で通る琴の師匠お艶を見そめ、亡き親への恩返しを口実に上京させて妾にする。こうして三人の妾が揃い、後編では妻の麻子を交えた駆け引きが動き出す。
登場人物
- 葛城余五郎(かつらぎ よごらう) 加賀の百姓の次男に生まれ、江戸へ出て一代で日本屈指の富豪になった実業家。金で手に入らぬ女はないと考え、色事にも金と策略で臨む。
- 麻子(あさこ。お麻) 余五郎の正妻。かつては湯島天神の矢場女「蜘蛛のお重」で、今は奥様として家内を治め、夫の妾たちにも目を光らせる。
- お才(おさい) 柳橋の芸者で、「柳屋の才蔵」の名で通る。才色兼備で気が強く、恋人の菊住に心中立てして客になびかない。
- 紅梅(こうばい。もとの名はお角) 雪村の別荘に抱えられていた女。おとなしく情の細かい様子で人に取り入るのが巧みで、子を欲しがる。
- お艶(おえん) 金沢の琴の師匠。堅気で律義な人柄で、世話になった人への恩義を重んじる。
- 山瀬(やませ) 余五郎の手代。粋人で口が達者、余五郎の色事の使い走りと策略の実行役を務める。
- 雪村素六(ゆきむら そろく) 向島の別荘に女を集めて貴顕を接待し、商いの便宜を図らせる紳商。余五郎とは対等に渡り合う商人仲間。
- 菊住(きくずみ) お才の恋人の色男。勤め人だが意気地に乏しく、金と女に弱い。
冒頭部(原文より)
あるやうで無いもの金銭とて、天下の人寐言にまで言うて欲しがらざるはなし、信に此金銭の獲難きことの不思議は、鉄を吸ふには奇妙、磁石といふ神通力あるに、是は又何したものと、金時計買ふ人の後に過難に立てる納豆売の独語尤也。
「三人妻」尾崎紅葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
久しく染井に窮命せし女も放生会に遭ひけるが、仍無能にても可愛男に情立てゝ、菊住と世帯持ちて柳橋に待合を始めぬ。
「三人妻」尾崎紅葉(青空文庫)
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:博文館『紅葉全集』第三巻(1912年。初版は1904年)所収の「三人妻」(前編・後編)。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて校正し、本文だけを収録した(柱・扉・挿絵は省いた)。ルビは底本のものを可能な限り残した。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。