おぼろ舟(尾崎紅葉)のあらすじ・登場人物
妾奉公に出た娘の命がけの初恋
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 28,010字
- 読了目安
- 約56分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
尾崎紅葉が雅俗折衷の文体で書いた短編小説。1890年(明治23年)3月20日から4月7日まで読売新聞に全19回で連載され、1892年(明治25年)2月20日に春陽堂から、「むき玉子」とともに『二人女』に収めて刊行された。浅草の口入れ屋で開かれる妾の「目見得」に、遊び慣れた二人の男が冷やかし半分で出かける場面から始まる。そこへ現れたのは、元旗本の家に生まれ、父を亡くして母と二人で暮らしに窮した十八歳の娘・お藤。母に孝行するため、恥を忍んで妾奉公に出たお藤は、旦那となった優しい青年・松本に生まれて初めての恋をする。明治の東京の風俗を細かく描きながら、純な娘の一途な恋を哀切に描いた全十九章。博文館『紅葉全集』第二巻(1912年。初版は1904年)に収める本文を、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて校正したもので、青空文庫には無い。ルビは底本のものを可能な限り残した。
あらすじ
浅草第六天の裏門前にある口入れ屋・相模屋、通称「百舌鳥屋」には、妾奉公の口を求める女たちが集まる。ある晩、遊び尽くした和服の男・三谷と、色白で物腰の柔らかな洋服の青年・松本が、妾の目見得を冷やかし半分にのぞきにくる。次々に現れる女たちを笑いの種にしていた二人だが、最後から二番目に現れた十七、八の娘の美しさと初々しさに息をのむ。娘の名はお藤。父はもと旗本で、維新後は勤め人となったが去年亡くなり、母と二人、下谷西黒門町の裏通りで家財を売り食いしてきたものの、ついに暮らしが立たなくなったのだった。母は、娘に操を売らせる身を嘆いて泣くが、お藤は、妾奉公は苦界に沈むのとは違う、旦那ひとりに真心を尽くせばよいと母を慰める。こうしてお藤は松本に囲われることになる。初めての晩、松本は羞じらうお藤を巧みにうちとけさせ、やがてお藤は生まれて初めての恋に心を奪われる。松本も母子に優しく、母親は娘の旦那を実の息子のように慕うようになる。ところがある夜、五、六日は忙しくて来られないと言い残して帰った松本は、約束の日を過ぎても、十日たっても姿を見せない。見捨てられたと思いつめたお藤は、母を飢えさせないために次の旦那を取ろうと涙ながらに言い出すが、心では松本を忘れられず、しだいに恋煩いで床につく。母は松本の住まいを訪ね歩き、留守を使われているのではと疑いながら、ついに松本の親友・三谷を頼る。三谷はお藤の痩せ衰えた姿に驚き、松本から手紙が来たと偽ってお藤を力づけるが、お藤の病はつのるばかりだった。
登場人物
- お藤(おふじ) 十八歳の娘。父はもと旗本で、去年亡くなった。容貌が美しく、内気で羞じらいが強い。暮らしに窮した母のため、自ら言い出して妾奉公に出る
- お藤の母 武家の気質を残した女性。娘に身を売らせることを深く恥じ、娘の行く末を案じる
- 松本(まつもと) 三十前の色白の青年。学問があり、ある商会に勤める。両親を亡くし、上野花園町に老女と暮らす。人あたりが柔らかく、お藤の旦那となる
- 三谷(みたに) 松本の無二の親友。色黒で太った和服の男で、遊蕩を窮めたと自任する。瀬戸物町に住む
- 百舌鳥屋の老女 浅草の口入れ屋・相模屋を一人で切り回す老婆。口が達者で、妾の目見得を取り仕切る
- 傭婆 松本の家で煮炊きの世話をする老女
冒頭部(原文より)
浅草第六天の後門前に年古る二階家あり。軒看板に雇人御請宿と律義に見せて、田舎茶屋行娼妓出稼など、不徳なる女人商売のあらゆる事に口利かぬはなしといふ。
「おぼろ舟」尾崎紅葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
母親は幾度か押戴き、これを霊前に供へて、お藤これ見よと、生ける人に物いふごとく、お礼を申せの、嬉しかろのと、有程のいぢらしき事して、果は絶入ばかり泣狂ふを、二人は見るに忍びず、瞑目して合掌し、口中にて頓生菩提南無阿弥陀仏。
「おぼろ舟」尾崎紅葉(青空文庫)
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:博文館『紅葉全集』第二巻(1912年。初版は1904年)所収の「おぼろ舟」。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて校正し、本文だけを収録した(柱・扉・挿絵は省いた)。ルビは底本のものを可能な限り残した。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。