遺言三種(森鴎外)のあらすじ・登場人物
石見人森林太郎として死す
- 文字数
- 1,366字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 随筆
この作品について
鴎外が残した三通の遺言を並べた文章。一通目は財産の分け方と家族の生活費の負担を定め、家族の事情から管理者を指名する条件を付ける。二通目は1918年(大正7年)3月13日付で、預金や不動産、遺著の収入を子どもたちに分ける。三通目は死の三日前の1922年(大正11年)7月6日、親友の賀古鶴所に書いてもらったもので、「石見人森林太郎トシテ死セント欲ス」と、官位や栄典を辞し、墓には「森林太郎墓」とだけ刻むよう求めている。二通目の冒頭に、日露戦争従軍の年に遺言を作ったとある。
あらすじ
一通目の遺言は、遺す財産を二つに分けて長男と母に与え、祖母・妻・弟・長女の生活費や教育費を、長男が受け取る財産から負担することを条件とする。あわせて、家族の間の不和を理由に、長男が成年に達しない場合の財産管理者を定める。二通目の遺言は大正七年三月十三日付で、前の遺言を作ってから家族に生死の変化があったとして、改めて遺言するもの。有価証券や預金、本郷や日在の地所家屋、家財、遺著の収入を、長男、長女、次女、次男ら家族に分け、遺言の執行に賀古鶴所の立ち会いを求める。三通目は大正十一年七月六日、親友の賀古鶴所に書いてもらったもので、少年時代から老死まで秘密なく交際したのは賀古君であると記したうえ、死は一切を打ち切る重大事件だとして、石見人森林太郎として死にたいと述べる。宮内省や陸軍の栄典を辞退し、墓には森林太郎墓のほか一字も彫らず、書は中村不折に頼むよう求める。
冒頭部(原文より)
壱 予ハ予ノ死後遺ス所ノ財産ヲ両半ニ平分シ左ノ弐条件ヲ附シテ壱半ヲ予ノ相続者予ノ長男森於菟ニ与ヘ壱半ヲ予ノ母森みねニ与フベシ 弐 予ノ祖母森きよノ生活費予ノ妻森しけガ生家荒木氏ニ復籍シ若クハ他家ニ再嫁スルニ至ルマデノ生活費予ノ弟潤三郎ガ他家ニ養ハレ若クハ自活ノ方法成立スルニ至ルマデノ生活費及教育費予ノ長女茉莉ガ他家ニ嫁スルニ至ルマデノ生活費及教育費並他家ニ嫁スル時ノ支度費ハ予ノ死後森於菟ガ予ノ与フル所ノ財産及其利子ノ壱部ヲ以テ負担スヘキコト是ヲ条件ノ壱トス
「遺言三種」森鴎外(青空文庫)
末尾部(原文より)
余ハ少年ノ時ヨリ老死ニ至ルマデ一切秘密無ク交際シタル友ハ賀古鶴所君ナリコヽニ死ニ臨ンテ賀古君ノ一筆ヲ煩ハス死ハ一切ヲ打チ切ル重大事件ナリ奈何ナル官憲威力ト雖此ニ反抗スル事ヲ得スト信ス余ハ石見人森林太郎トシテ死セント欲ス宮内省陸軍皆縁故アレドモ生死別ルヽ瞬間アラユル外形的取扱ヒヲ辞ス森林太郎トシテ死セントス墓ハ森林太郎墓ノ外一字モホル可ラス書ハ中村不折ニ依託シ宮内省陸軍ノ栄典ハ絶対ニ取リヤメヲ請フ手続ハソレゾレアルベシコレ唯一ノ友人ニ云ヒ残スモノニシテ何人ノ容喙ヲモ許サス
「遺言三種」森鴎外(青空文庫)
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