月夜車(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
母の墓へ向かう月夜の車夫
- 家族
- 心理
- 文字数
- 5,947字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1910年(明治43年)3月に「毎日電報」に掲載された短編。母親の追善の宴からの帰り道、青年が車夫に呼びかけて車を降りる。その車夫は昔、父母に世話になった蒔絵師の弟子だった。母の十三回忌を営む芸者たちへの驚き、没落した車夫の述懐、墓参りへ向かう月夜の山道が描かれる。本文は梟の声が響く場面で終わる。
あらすじ
夏の夜の十時過ぎ、母親の追善の席を終えた青年・袖崎は、車で帰る途中、鈴の緒橋の手前で車夫に声をかけて山の裾へ入る。同席した婦人たちは芸者だが、お師匠さんだった母の十三回忌に集まった教え子だと聞いて、車夫は感心する。やがて車夫は、袖崎が自分の恩人の坊ちゃんだと気づく。車夫の友造は、袖崎の父に師事した蒔絵職人の弟子で、飲酒や遊蕩で身を持ち崩し、目も悪くなって車夫に落ちぶれていた。母がかばってくれたこと、父の死後に母が苦労して育てたことを涙ながらに語る。袖崎はこれから墓参りをするため、一人で歩きたいと言って友造を帰そうとする。梟の声が月の空を走る。
登場人物
- 袖崎 二十六歳の青年。東京の大学を出て帰省中
- 友造 もと蒔絵師の弟子で今は車夫。袖崎の家に恩がある
- 袖崎の母 女紅場で遊藝を教えた女性。十三年前に亡くなった
冒頭部(原文より)
宴會と云ふが、優しい心ざしの人たちが、なき母親の追善を營んだ、其の席に列なつて、式も盞も濟んだ、夏の夜の十時過ぎを、袖崎と言ふ、………今年東京の何某大學の國文科を卒業して、故郷へ歸省中の青年が山の麓を川に添つて、下流の方へ車を走らして歸つて來た。やがて町に近い、鈴の緒と云ふ橋が、河原の晃々と白い、水の蒼い、對岸の暗い、川幅を横に切つて、艷々と一條架る。袂に黒く、こんもりと濃い緑を包んで、遙かに星のやうな遠灯を、ちら/\と葉裏に透す、一本の榎の姿を、前に斜に見た處で、 「車夫、」 と上から聲を懸けた。
「月夜車」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「あゝ、如何樣、」 と又しんみりして、 「最惜げな。早くから御兩親にお別れなすつた貴下でござります。格別のお心持、お墓の松の風の音が、峰からして此處までなあ……なまいだぶ、なまいだぶ、なまいだぶ、……」 時に山彦が口笛吹くかと、梟の聲が、月の空をホツオーホと走る。
「月夜車」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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