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身投げ救助業(菊池寛)のあらすじ・登場人物

疏水の橋のそばで竿を持つ老婆

  • 心理

菊池寛 1916年(大正5年)9月 「新思潮」

文字数
5,938字
読了目安
約12分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 京都府

この作品について

菊池寛が京都帝国大学を卒業した1916年(大正5)、芥川龍之介や久米正雄らと出していた第4次「新思潮」の9月号に発表した短編。本名で発表した最初期の小説の一つにあたる。京都には昔からよい身投げ場所がなかったという考察から語り起こされ、明治に琵琶湖疏水が引かれて新たな身投げの名所ができるまでの経緯が、自殺者の心理を交えて淡々と説明される。物語の中心は、疏水の橋のそばで小さな茶店を営む老婆である。身投げの悲鳴を聞くたびに長い竿を差し出して人を救い、府から一円五十銭ずつの褒賞金を受け取ってきた。京都にいた菊池が見聞きした土地の様子が背景にあり、皮肉のきいた語り口で人の心の動きを追う。

あらすじ

京都にはよい身投げ場所がなく、人々は首をくくるか遠くの池や湖まで行くしかなかったが、明治に琵琶湖疏水が引かれると、疏水が自殺の名所になった。岡崎公園のそばの寂しい木の橋から飛び込む者が多く、その下流に、博覧会のときから茶店を営む老婆の家があった。老婆は最初、何もできずに念仏を唱えていたが、ある夜、物干し竿で若い男を救い、府庁から一円五十銭の褒美をもらう。それから老婆は懸命に人を救い、四十三から五十八までに五十いくつの命を助け、褒賞金を郵便貯金に預けた。投身者が少ないと物足りなく思うほどで、人を助ければ極楽へ行けると信じていたが、助けた人が礼を言いに来ないことは不満だった。二度飛び込んで二度とも竿にすがった娘を見て、何遍飛び込んでも助かりたいものだと老婆は言う。ところが今年の春、二十一の娘が旅役者と通じ、母の貯金通帳を持ち出して駆け落ちしてしまう。望みを失った老婆は、娘へのみせしめにもと、住み慣れた家の近くの橋から身を投げた。気がつくと、いつも自分が立つ場所に色の黒い四十男がいて、もう一足遅かったら死なせるところだったと巡査に自慢していた。老婆はその男を激しく恨み、恥と怒りで家に駆け込んで戸を閉める。それ以来、老婆には自殺する力さえなくなり、竿は背戸に立てかけられたまま、橋から飛び込んだ者が助かった噂は聞かれなくなった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 ものの本によると、京都にも昔から自殺者はかなり多かった。  都はいつの時代でも田舎よりも生存競争が烈しい。生活に堪えきれぬ不幸が襲ってくると、思いきって死ぬ者が多かった。

「身投げ救助業」菊池寛(青空文庫)

末尾部(原文より)

 老婆はそれ以来、淋しく、力無く暮している。彼女には自殺する力さえなくなってしまった。娘は帰りそうにもない。泥のように重苦しい日が続いていく。  老婆の家の背戸には、まだあの長い物干竿が立てかけてある。しかし、あの橋から飛び込む自殺者が助かった噂はもうきかなくなった。

「身投げ救助業」菊池寛(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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