手巾(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
武士道と、その裏の演技
- 心理
- 文字数
- 7,384字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
新渡戸稲造を思わせる東京帝大教授・長谷川謹造を主人公に、日本の武士道と、そこにひそむ演技性とを問うた短編。1916年(大正5)に『中央公論』に発表された。教え子の母親の訪問を受けた一場面を軸に、教授が受けた印象とその意味づけを描く。文明と道徳の内実を醒めた眼で見据えた、芥川の初期の代表作の一つである。
あらすじ
東京帝国大学教授の長谷川謹造は、ヴェランダでストリンドベリの『作劇術』を読みながら、日本の文明について思いをめぐらせている。そこへ、教え子の母親である一人の婦人が訪ねてくる。用件を尋ねると、婦人はつい先ごろ息子が病で亡くなったことを、少しも取り乱さず、むしろ微笑さえ浮かべて淡々と語る。その落ち着きに感心した教授だったが、ふと落とした団扇を拾おうと机の下を見て、婦人が膝の上でハンケチを両手で握りしめ、引き裂かんばかりに震わせているのに気づく。顔は笑い、手は泣いている——教授はそこに、感情を抑える日本女性の、武士道的な美を見て深く感動する。ところがその夜、再びストリンドベリを開くと、そこには「顔で笑い手で悲しみを表す」演技を、型にはまった通俗的手法として難じる一節があった。あの母親の振る舞いも、所詮は演技だったのか。教授は説明のつかない不快さを抱え、岐阜提灯の明かりをじっと見つめるのだった。
登場人物
- 長谷川謹造 東京帝大教授。日本の文明と武士道を論じるが、その確信を揺さぶられる(新渡戸稲造がモデルとされる)
- 西山篤子 亡くなった教え子の母。微笑を保ちつつ手巾を握りしめて悲しみに耐える
冒頭部(原文より)
東京帝国法科大学教授、長谷川謹造先生は、ヴエランダの籐椅子に腰をかけて、ストリントベルクの作劇術を読んでゐた。
「手巾」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
先生は、不快さうに二三度頭を振つて、それから又上眼を使ひながら、ぢつと、秋草を描いた岐阜提灯の明い灯を眺め始めた。
「手巾」芥川龍之介(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。