子をつれて(葛西善蔵)のあらすじ・登場人物
子供等までも巻添えにするのか
- 家族
- 心理
- 文字数
- 16,971字
- 読了目安
- 約34分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1918年(大正7年)、「早稲田文学」に発表された葛西善蔵の代表作。家賃を四か月滞納し、立退きを迫られている「彼」は、金策に郷里へ発たせた妻からの便りも絶えたまま、二人の子供と暮らしている。友人Kのもとへ無心に通い、警察に呼ばれ、ついに約束の期日が来て、家を出るほかなくなる。行く当てもなく子供の手を引いて夜の街をさまよう一日を、自らの生活そのままに描いた。貧窮と破綻をそのまま作品とし、「私小説の神様」と呼ばれた作者の名を決定づけた一編である。
あらすじ
敷金は切れ、家賃は四か月の滞納。家主との関係は断たれ、立退き専門の「三百」が幾度も催促に現れる。「彼」は十日限りの証書を書かされ、無理算段をして妻を遠い郷里の実家へ金策に発たせたが、妻は末の娘を連れたまま帰って来ない。庭の隣は墓地で、丹精した朝顔は蔓ばかり延びて花をつけなかった。友人のKを訪ねれば一円は借りられる。だがKは「そりゃね、今日の処は一円差上げることは差上げますがね、後をどうするかね?」と問う。君はそうしていて些とも怖いと思うことはないか、それは漠然とした恐怖なんかじゃない、明瞭な恐ろしい事実なんだ、と。彼にはその恐ろしいものの本体がまだ分からない。ただ泥沼に脚を取られるように刻々と沈んでゆくことだけは分かっている。約束の日が来て、家財は運び出され、彼は長男と長女を連れて家を出た。バーで酒を飲みながら、感興性を失った芸術家の生活は悪生活だと自分に呟く。夜十時を過ぎ、Kの下宿に二三日泊めてくれと頼んだが、老主人夫婦は彼らの尋常でない様子を見て取って断った。長女が声を立てて泣きだす。
登場人物
- 彼 家賃を滞納して立退きを迫られている小説家。二人の子を連れて家を出る
- 長男・長女 父に連れられて夜の街をさまよう子供たち
- 妻 末の娘を連れて金策のため郷里の実家へ帰ったまま、音信が絶えている
- K 渋谷の下宿に住む友人。無心に応じながら、彼の生活のありようを厳しく問う
- 三百 立退きを請求しに来る四十二三の男
冒頭部(原文より)
一 掃除をしたり、お菜を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を済まさせ、彼はようやく西日の引いた縁側近くへお膳を据えて、淋しい気持で晩酌の盃を嘗めていた。すると御免とも云わずに表の格子戸をそうっと開けて、例の立退き請求の三百が、玄関の開いてた障子の間から、ぬうっと顔を突出した。
「子をつれて」葛西善蔵(青空文庫)
末尾部(原文より)
湿っぽい夜更けの風の気持好く吹いて来る暗い濠端を、客の少い電車が、はやい速力で駛った。生存が出来なくなるぞ! 斯う云ったKの顔、警部の顔――併し実際それがそれ程大したことなんだろうか。 「……が、子供等までも自分の巻添えにするということは?」 そうだ! それは確かに怖ろしいことに違いない! が今は唯、彼の頭も身体も、彼の子供と同じように、休息を欲した。
「子をつれて」葛西善蔵(青空文庫)
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