或売笑婦の話(徳田秋声)のあらすじ・登場人物
年季明けの女と学生の夏
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 10,688字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「中央公論」1920(大正9)年4月号に発表された徳田秋声の短編。「私」の家に出入りしていた職人が勝手口で語り残していった、ある遊女の身の上話という枠で書かれている。年季を勤め上げても身を寄せる当てのない女のもとに、花見帰りの私立大学の学生が友人と上がってくる。女は世慣れない「坊っちゃん」に気安く接し、学生はこんな所から一日も早く出してあげたいと熱を込めて語る。同年の「蒼白い月」とともに、この時期の秋声の好短編に数えられる。廓の部屋の世帯道具や、初めて見る田舎の夜道・青田・夏の海が女の目にどう映るかを細かく描き、男の言葉と女の現実とのずれを抑えた筆致で追っている。
あらすじ
話を残していったのは、「私」の家に出入りしていた職人である。年季を勤め上げて自由の身となった遊女は、田舎の家に父もなく、落ち着く当てもないまま客を取り続けていた。花見帰りに友人と上がってきた私立大学の学生は、裕福な家の母に愛されて育った幼い青年で、彼女は初め冗談まじりにあしらうが、やがて二人は身の上を語り合う仲になる。学生は、老人の囲い者になるしかないという彼女の行く末を嘆き、ここから出してあげたいと言って、母から五百円を工面してくるが、女はその一部だけを取り、意見して大半を返す。夏に学生が帰省すると、女はその好意を退けたのは生涯の失策だったと思い始め、ふと思い立って土産を携え、両国から汽車で海岸近くの彼の家を訪ねる。夜の田舎道に怯えながら着いた屋敷の離れで、学生は驚きつつ彼女を迎えるが、母には友人の姉だと偽っていた。翌日、海岸の宿に移った二人が浜にいると、沖の汽船から上がってきた肥った老人が、彼女のもとへよく通ってくる千葉在の客だとわかる。それは学生の父親だった。二人はそれについて何も語り合わず、三日目、彼がいったん家へ帰ったその夕方、女は宿にも告げずに立ち去った。
登場人物
- 女 年季を勤め上げた遊女。西の方の生まれで、身を寄せる当てがない
- 学生 私立大学の学生。裕福な家の息子で、女をここから出したいと願う
- 学生の母 息子に深い慈愛をもつ五十ばかりの女性
- 職人 「私」の家に出入りし、この話を語り残した男
冒頭部(原文より)
この話を残して行つた男は、今どこにゐるか行方もしれない。しる必要もない。彼は正直な職人であつたが、成績の好い上等兵として兵営生活から解放されて後、町の料理屋から、或は遊廓から時に附馬を引いて来たりした。これは早朝、そんな場合の金を少しばかり持つて行つた或日の晩、縁日の植木などをもつて来て、勝手の方で東京の職人らしい感傷的な気分で話した一売笑婦の身の上である。
「或売笑婦の話」徳田秋声(青空文庫)
末尾部(原文より)
其の晩も二人は町や海岸を散歩して、帰つてからも遅くまで月光の漾ひ流れてゐる野面を眺めながら話してゐた。彼は彼女の憂欝な気分を悲しく思つたが、女は自分を如何にして幸福にしようかと悩んでゐる彼を哀んだ。 三日目に、彼はちよつと家へ帰つてくると言つて立つて行つたが、その夕方彼女は宿へも無断でそこを立つてしまつた。
「或売笑婦の話」徳田秋声(青空文庫)
原文を読む
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