唄立山心中一曲(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
雪の山に響く立山の唄
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 30,816字
- 読了目安
- 約1時間2分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 長野県
この作品について
1920年(大正9年)12月の日付をもつ作品。月見に出かけた姨捨の駅で、「私」と画家の小村雪岱が、薄暗い饂飩屋の二階で、一人の鋳掛屋から聞く、飛騨の山中の温泉場での出来事。雪の夜に松明を手にした二人の女が山道を上っていく、凄絶で美しい悲恋の物語で、作中には鏡花自身の旧作に連なる挿話も織り込まれる。
あらすじ
十一月、月見のため信州姨捨に降りた「私」と画家の小村雪岱は、暗い駅から迷い歩いて、場末の饂飩屋の二階に落ち着く。階下で、子犬を踏みつけて鳴かせてしまう騒ぎのあと、荷を置いた鋳掛屋の藤助が、飛騨山中の狼温泉で見た話を語りはじめる。火事で焼けた温泉場の外れで、藤助は、雪の中を松明を掲げて山へ上る二人の女を見た。蓑を着た旅館の女中お道と、盛装した高島田の若奥様・縫子である。山頂の天幕には電信技師の立野竜三郎がいて、お道は二年越しで彼を慕っていた。縫子は、三年前、婚礼の日の汽車の中で、片袖を技師の革鞄に挟まれたまま失った新妻で、夫の若旦那とともに、技師を訪ねてきたのだった。夫は、技師を革鞄とともに的に立たせ、短銃で錠前を射て袖を取り戻そうと言う。技師は動かない。お道は身代わりを買って出るが、技師は彼女を抱き倒して足で押さえる。撃つ寸前、縫子は自ら銃口を自分に向け、「百万年の後にまたお目にかかります」と言い残して絶命する。若旦那は断崖から身を投げ、技師は、お道を抱いて耐える。藤助は、実は若旦那に頼まれて合鍵を作る約束をしていた、と打ち明け、あくる朝の水車に流れた血のような紅葉を語って、立山の唄を口にする。聞いていた者は涙を流し、座は通夜のようになった。
登場人物
- 私 月見に出かけた小説家
- 小村雪岱 私の連れの画家
- 藤助 鋳掛屋。三味線を持つ
- お道 狼温泉の旅館の女中。電信技師を慕う
- 縫子 盛装の若奥様。三年前の婚礼の日、汽車の中で片袖を失った
- 立野竜三郎 山頂の天幕で働く電信技師
- 村上八百次郎 縫子の夫。上州高崎の資産家の若旦那
冒頭部(原文より)
「ちらちらちらちら雪の降る中へ、松明がぱっと燃えながら二本――誰も言うことでございますが、他にいたし方もありませんや。真白な手が二つ、悚然とするほどな婦が二人……もうやがてそこら一面に薄り白くなった上を、静に通って行くのでございます。正体は知れていても、何しろそれに、所が山奥でございましょう。どうもね、余り美しくって物凄うございました。」 と鋳掛屋が私たちに話した。 いきなり鋳掛屋が話したでは、ちと唐突に過ぎる。知己になってこの話を聞いた場所と、そのいきさつをちょっと申陳べる。けれども、肝心な雪女郎と山姫が長襦袢で顕れたようなお話で、少くとも御覧の方はさきをお急ぎ下さるであろうと思う、で、簡単にその次第を申上げる。
「唄立山心中一曲」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
あとで、鋳掛屋に立山を聴いた――追善の心である。皆涙を流した……座は通夜のようであった。 姨捨山の月霜にして、果なき谷の、暗き靄の底に、千曲川は水晶の珠数の乱るるごとく流れたのである。
「唄立山心中一曲」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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