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真珠夫人(菊池寛)のあらすじ・登場人物

貞操を武器に、男たちを翻弄する

  • 詳細なあらすじ
  • 人物相関図
  • 恋愛
  • 心理

菊池寛 1920年(大正9年)6月 「大阪毎日新聞」

文字数
289,523字
読了目安
約9時間39分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都
  • 神奈川県

この作品について

1920年(大正9年)に「大阪毎日新聞」「東京日日新聞」へ連載され、菊池寛を一躍流行作家の地位に押し上げた新聞小説。父の窮地を救うため成金の実業家に嫁いだ美貌の令嬢・瑠璃子が、夫にも他の男にも身を許さぬまま、男たちを翻弄する「魔性の女」として振る舞う。通俗小説の枠を用いながら、家父長制のもとで男の所有物とされてきた女性の反逆を描き、日本の大衆小説・恋愛小説の原型となった。「真珠夫人」の名は、汚れなき真珠になぞらえた瑠璃子の異名である。

あらすじ

新婚の会社員・渥美信一郎は、湯河原へ向かう途中で乗り合わせた青年・青木淳の横死に立ち会い、「時計を返して呉れ」という遺言と「瑠璃子」という名を託される。その瑠璃子とは、男たちを翻弄する妖婦と噂される美貌の未亡人・荘田瑠璃子であった。物語は二年前に遡る。男爵家の令嬢・唐沢瑠璃子は、杉野子爵の長男・直也との清らかな恋を抱いていたが、園遊会で二人に「成金」と嘲られた実業家・荘田勝平が、その報復に父の借財を買い占めて罠にかけ、父は横領の告訴を受ける。瑠璃子は父を救うため、自ら望んで荘田家へ嫁ぐ。しかし瑠璃子は、婚礼の夜から夫に一指も触れさせない。荘田は妻を得ながら妻を得られぬ焦燥のうちに苦しみ、嵐の夜の別荘で死ぬ。莫大な遺産を継いだ瑠璃子は、豪奢な邸に若い男たちを集めては、その心を捉えては突き放し、誰にも身を許さない。彼女に惹かれる者は次々と破滅していった。信一郎もまた瑠璃子に近づくうち、その氷のような態度の底にある悲しみを知る。だが復讐の連鎖は瑠璃子自身をも呑み込み、彼女は思いもよらぬ最期を迎えることになる。

登場人物

人物相関図

初恋の恋人。写真を肌身に憎しみの結婚。名ばかりの妻父娘。守り刀を渡す父子。画業を巡り衝突し家出兄妹。死後に肖像画を描く借財を買い占め横領で告訴軸物を預けて罠にかける買収して手先に使う縁談を取り次ぎ謝礼を受ける園遊会で罵られ金の力で報復勝平を撃ち誤って傷つける父娘。臨終に後事を託す嵐の夜に組み付き死なせる姉さんと慕い扉の番兵となる義理の母子。姉妹のように愛す初恋。心ひそかに慕う求婚を退けられ刺して芦ノ湖へ同じ時計を贈られ死を選ぶ臨終に時計とノートを託す魅惑と幻滅。妖婦と面罵兄のノートを見せ火を煽るからさわこういち唐沢光一瑠璃子の兄。画家を志して家を出るからさわだんしゃく唐沢男爵瑠璃子の父。清貧の元司法大臣きのした木下男爵の元秘書官。勝平に買収されるすぎのししゃく杉野子爵直也の父。金で勝平の仲人を務めるすぎのなおや杉野直也瑠璃子の初恋の人。学生。のちボルネオへからさわるりこ唐沢瑠璃子男爵令嬢。憎しみの結婚で荘田夫人にしょうだかつへい荘田勝平四十五歳の成金。金の力を誇るあつみしんいちろう渥美信一郎新婚の会社員。淳の臨終に立ち会うしょうだみなこ荘田美奈子勝平の娘。瑠璃子を母とも姉とも慕うしょうだかつひこ荘田勝彦勝平の長男。白痴。瑠璃子の「番兵」あおきじゅん青木淳男爵家の長子。文科大学生あおきみのる青木稔淳の弟。兄と瓜二つの学生
人物の関係を整理した相関図(アプリ収録の図をそのまま掲載しています)

章ごとの「詳細なあらすじ」

アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。

  1. 一 この作品について
  2. 二 主要人物
  3. 三 主要なサブキャラクター
  4. 四 奇禍──返すべき時計と美しき遅参者
  5. 五 そのかみの事──園遊会の侮辱と唐沢家への罠
  6. 六 憎しみの結婚──帝国ホテルの祝宴と名ばかりの妻
  7. 七 嵐を衝いて──葉山の夜と勝平の死
  8. 八 客間の女王──魅惑と面罵
  9. 九 破裂点──美奈子の初恋と真珠夫人の最期
  10. 十 重要な設定と伏線

冒頭部(原文より)

奇禍 一  汽車が大船を離れた頃から、信一郎の心は、段々烈しくなって行く焦燥しさで、満たされていた。国府津迄の、まだ五つも六つもある駅毎に、汽車が小刻みに、停車せねばならぬことが、彼の心持を可なり、いら立たせているのであった。  彼は、一刻も早く静子に、会いたかった。そして彼の愛撫に、渇えている彼女を、思うさま、いたわってやりたかった。

「真珠夫人」菊池寛(青空文庫)

末尾部(原文より)

 それは、清麗高雅、真珠の如き美貌を持った若き夫人の立姿であった。而も、この肖像画の成功はその顔に巧みに現わされた自覚した近代的女性に特有な、理智的な、精神的な、表情の輝きであると云われていた。その絵を親しく見た人は、画面の右の端に、K. K. と署名されているのに気が付いただろう。それは、妹の保護のもとに、芸術の道に精進していた唐沢光一が、妹の横死を悼む涙の裡に完成した力作で、彼女に対する彼が、唯一の手向であったのであろう。  瑠璃子を失った美奈子の運命が、此先何うなって行くか、それは未来のことであるから、此の小説の作者にも分らない。が、われ/\は彼女を安心して、直也の手に委せて置いてもいゝだろうと思う。

「真珠夫人」菊池寛(青空文庫)

名文

妾はユージットのように、戦って見たいと思うのです。

菊池寛『真珠夫人』で、瑠璃子が父に語る決意。敵将を討った旧約の女性ユディトに自らをなぞらえ、ヒロインの気概が鮮明に表れる。

大抵の男性は、女性から女性へと心を移していながら、平然と済していますのに、女性が反対に男性から男性へと、心を移すと、直ぐ何とか非難を受けなければなりませんのですもの。妾、ホセに刺し殺されるカルメンのことを考える度毎に、男性の我儘と暴虐とを、憤らずにはいられないのです。

瑠璃子夫人が信一郎に語る男性観。男の移り気は許され女だけが非難される不公平を、カルメンを引いて鋭く突く。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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