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橡の花(梶井基次郎)のあらすじ・登場人物

梅雨の憂鬱を綴る手紙

  • 心理

梶井基次郎 1925年(大正14年)11月 「青空」

文字数
10,671字
読了目安
約21分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1925(大正14)年11月、同人誌「青空」に発表された梶井基次郎の短編。梅雨の頃に東京で暮らす「私」が、京都時代からの知人「あなた」へ宛てた手紙の形で書かれている。電車での通学、友人たちとの会話、飯倉の下宿の窓から見える椎の老樹、雨あがりの街路樹の花など、憂鬱な季節の日々の出来事と心の揺れを率直に打ち明けていく。作中には、京都時代の仲間と東京で同人雑誌を出す相談をする場面もある。

あらすじ

梅雨の頃、東京に住む「私」は、京都時代を知る「あなた」に宛てて手紙を書く。陰鬱な天候に弱り、学校へ通う電車の中では人の視線を気にし、乗客の服装や髪型の悪趣味に苛立って、ある婦人を言葉でやっつける場面を想像しては、かえって自分の神経の弱さを思い知る。車輪の響きが勝手に音楽となって聞こえ、それが下品な曲を奏でるのにも悩まされる。ある日訪ねてきた健康な友人のOは、机の上に Waste と書き並べた紙を見てからかうが、私はそれを書く鉛筆の音に、故郷の家族のアクセントに似た可愛いリズムを聴いた話をする。Oが語った娯楽場の驢馬と女の子の話には、笑っているうちに女の子の恥ずかしさが押し寄せて笑えなくなる。窓から見える椎の老樹は梅雨に赤く染まり、湿気のこもる部屋を「ぼろ船の底」と罵って気分を変えることもある。雨の日、私は同人雑誌の積立金を持って、結婚問題で家と揉めている友人Aの家を訪ね、知ることと行うことを分けない仲間の強さに打たれる。帰り道、雨あがりの飯倉で友と七葉樹の花を見上げ、明るい電車が通り過ぎるのを見送るうち、気持ちは調和を取り戻す。手紙を書こうと思い立った日、銭湯で見知らぬ女の子に作り顔をして見せ、長湯ののち晴々した気持ちで上がった私は、鏡の前でおどけた顔をして笑い出す。いちばん嫌な季節の終わりに、妄想で自らを卑屈にせず、戦うべき相手とこそ戦いたいという思いを伝えて、手紙は結ばれる。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  この頃の陰鬱な天候に弱らされていて手紙を書く気にもなれませんでした。以前京都にいた頃は毎年のようにこの季節に肋膜を悪くしたのですが、此方へ来てからはそんなことはなくなりました。一つは酒類を飲まなくなったせいかも知れません。然しやはり精神が不健康になります。

「橡の花」梶井基次郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 一年中で私の最もいやな時期ももう過ぎようとしています。思い出してみれば、どうにも心の動きがつかなかったような日が多かったなかにも、南葵文庫の庭で忍冬の高い香を知ったようなときもあります。霊南坂で鉄道草の香りから夏を越した秋がもう間近に来ているのだと思ったような晩もあります。妄想で自らを卑屈にすることなく、戦うべき相手とこそ戦いたい、そしてその後の調和にこそ安んじたいと願う私の気持をお伝えしたくこの筆をとりました。

「橡の花」梶井基次郎(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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