疑惑(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
疑う心こそ罪という心理劇
- ミステリ
- 心理
- 文字数
- 18,313字
- 読了目安
- 約37分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1925年(大正14年)、「写真報知」に発表した短編。父親が殺された——その疑いをめぐって、家族の一人ひとりが互いに疑心暗鬼にとらわれていく。だが、真相はまったく意外なところにあった。人が人を疑うことの罪深さを見つめた、乱歩初期の心理的な一編である。
あらすじ
「お父さんが、なくなられたと、いうじゃないか」——ある家で、父親が不審な死をとげる。殺されたのではないか、という疑いが持ち上がると、家族たちは互いに、あいつが手を下したのではないかと、ひそかに疑い合いはじめる。誰もが胸に暗い「疑惑」を抱え、疑心暗鬼が家じゅうに広がっていく。ところが、事の真相が明らかになると、それは思いがけないものだった。父の死は、じつは誰かの殺意によるものではなかったのだ。皆が互いを疑ったのは、実はそれぞれが相手をかばい合っていたからで、この一家には、父を殺すほどの悪人など一人もいなかった。そろいもそろって無類の善人ばかりだったのだ。「その中で、たった一人の悪人は、皆を疑っていたこのおれだ」——強い疑惑の心を抱いたこと、そのことこそが罪だった、と語り手は自らを省みる。人が人を疑うことの罪深さを静かに見つめた、乱歩初期の心理的な短編である。
冒頭部(原文より)
「お父さんが、なくなられたと、いうじゃないか」 「ウン」 「矢張り本当なんだね」
「疑惑」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
「皆が疑い合ったのは、実はかばい合っていたので、だれもあんな親父をさえ殺す程の悪人はいなかったのだ。そろいもそろって無類の善人ばかりだった。その中で、たった一人の悪人は、皆を疑っていたこのおれだ。その疑惑の心の強い点だけでも、おれは正に悪党だった」
「疑惑」江戸川乱歩(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。