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私(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物

寮の盗難事件と疑心暗鬼

  • ミステリ
  • 心理

谷崎潤一郎 1921年(大正10年)3月 「改造」

文字数
11,944字
読了目安
約24分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

一高の寄宿寮を舞台にした犯罪小説。1921年(大正10年)3月、雑誌「改造」に発表された。頻発する盗難事件をめぐって、寮生たちの疑心暗鬼と友情が語られていく。「途上」と並ぶ谷崎の探偵趣味の代表作で、犯人の内側から心理を描き出す構成は、のちの推理小説を先取りしたものとして高く評価されている。

あらすじ

一高の寄宿寮で盗難が続いていた。ある晩の蝋勉のさなか、樋口・平田・中村と「私」の四人は犯人の噂に興じ、風呂場の脱衣場で委員がひそかに天井裏から張り番をしているという秘密まで話題に上る。犯人が逃げるとき頭から被っていた羽織の紋は下り藤——それは私の家の紋でもあった。その夜以来「下り藤の紋附」は私の気苦労の種となり、寮では投書や告げ口が相次いで、委員たちは私に嫌疑をかけはじめる。樋口と中村は涙ながらに私を弁護し、平田だけが冷ややかに私を睨みつづけた。私は二人の友情に感謝しながら、繰り返し「僕は君等の考えているような値打のある人間じゃない」と告げる。そしてある夜、平田の為替に手を伸ばした私の背後から、「ぬすツと!」という声が飛んだ。

登場人物

冒頭部(原文より)

もう何年か前、私が一高の寄宿寮に居た当時の話。  或る晩のことである。その時分はいつも同室生が寝室に額を鳩めては、夜おそくまで蝋勉と称して蝋燭をつけて勉強する(その実駄弁を弄する)のが習慣になつて居たのだが、その晩も電燈が消えてしまつてから長い間、三四人が蝋燭の灯影にうづくまりつゝおしやべりをつゞけて居たのであつた。

「私」谷崎潤一郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

それからもう何年か立つた。私は其の後何遍となく暗い所へ入れられもしたし、今では本職のぬすツと仲間へ落ちてしまつたが、あの時分のことは忘れられない。殊に忘れられないのは平田である。  読者諸君よ、以上は私のうそ偽りのない記録である。私は茲に一つとして不正直な事を書いては居ない。さうして、樋口や中村に対すると同じく、諸君に対しても「私のやうなぬすツとの心中にも此れだけデリケートな気持がある」と云ふことを、酌んで貰ひたいと思ふのである。

「私」谷崎潤一郎(青空文庫)

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