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国貞えがく(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

母の形見の錦絵をたずねて

  • 心理
  • 幻想

泉鏡花 1910年(明治43年)1月

文字数
15,560字
読了目安
約31分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

泉鏡花の短編小説で、1910年(明治43)1月に発表された。題の国貞は、美人画や役者絵で知られる江戸後期の浮世絵師歌川国貞のこと。東京で暮らす三十歳の立田織次は、汽車が通じてから初めて城下町の故郷へ帰省し、為替を受け取ったその足で、亡父と同じ職人仲間の平吉の家を訪ねる。そこには十数年前、亡き母の形見の錦絵をめぐる思い出があった。見世物小屋の蜘蛛男、辻のでろれん祭文、山奥の二股坂の言い伝えなど、少年時代の町の記憶が、道すがらの景色に重なって次々に呼び起こされる。現在の訪問と過去の回想とを行き来しながら、鏡花らしい幻想の気配を織り込んだ作品。

あらすじ

五月、帰省した立田織次は郵便局で為替を受け取り、亡父と同じ職人仲間の小北平吉の家へ向かう。道々、見世物の蜘蛛男や、二股坂の庄屋がかどわかした娘たちの話、辻の祭文語りの姫松が松葉燻しにされる場面など、幼い日の記憶がよみがえる。少年のころ、貧しい織次の家では、学校で皆が持っている新撰物理書を欲しがる織次のために、祖母が母の形見の国貞の錦絵二百余枚を古本屋へ売りに行った。その晩、織次は台所で亡き母の幻を見る。平吉が金を立て替えて買い戻せと言い、祖母と織次が引き返すと、古本屋の亭主は、絵は越後へ行く飛脚が買って二股坂を越えていったと嘲った。それを平吉が掛け合って買い戻し、預かっていたのである。十四、五年ぶりに訪ねた平吉は世辞ばかりで、妻を亡くした後、幼なじみのお琴を後添いにしていた。お琴は絵は蔵にあると答えるが、平吉は人に貸したきりで、近頃は値が出たと言葉を濁し、鰯を焼けとごまかす。母の形見を平吉が手放そうとしないと悟った織次は、金で片をつけようと言い放ち、鰯は待てと迫る。

登場人物

冒頭部(原文より)

 柳を植えた……その柳の一処繁った中に、清水の湧く井戸がある。……大通り四ツ角の郵便局で、東京から組んで寄越した若干金の為替を請取って、三ツ巻に包んで、ト先ず懐中に及ぶ。  春は過ぎても、初夏の日の長い、五月中旬、午頃の郵便局は閑なもの。受附にもどの口にも他に立集う人は一人もなかった。が、為替は直ぐ手取早くは受取れなかった。

「国貞えがく」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

 と隣室の茶の室で、女房の、その、上の姉が皺びた声。 「なんまいだ。」  と婆が唱える。……これが――「姫松殿がえ。」と耳を貫く。……称名の中から、じりじりと脂肪の煮える響がして、腥いのが、むらむらと来た。  この臭気が、偶と、あの黒表紙に肖然だと思った。  とそれならぬ、姉様が、山賊の手に松葉燻しの、乱るる、揺めく、黒髪までが目前にちらつく。  織次は激くいった。 「平吉、金子でつく話はつけよう。鰯は待て。」

「国貞えがく」泉鏡花(青空文庫)

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