窮死(国木田独歩)のあらすじ・登場人物
安めし屋に集う日雇いたち
- 社会
- 心理
- 文字数
- 6,211字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
国木田独歩が1907年(明治40年)、「文芸倶楽部」に発表した短編小説。独歩晩年の自然主義文学を代表する一編である。九段坂近くの安めし屋を舞台に、その日暮らしの下層労働者たちのやり取りを写しとりながら、病を得て働けなくなった日雇い人夫・文公の行く末を、感傷を排した筆致で淡々と追う。社会の最底辺に生きる者の現実を、突き放すように見つめた独歩の代表的短編。
あらすじ
九段坂の近くにある安めし屋。春の末の夕暮れ、土方や立ちんぼうといった、その日暮らしの下層労働者たちが、わずかな銭で安酒を酌みかわしている。そこへ、大儀そうに敷居をまたいで入ってきたのが文公である。仲間たちは彼の身体を気づかうが、文公は病を得て、もはや思うように働けなくなっていた。頼るあてもなく、日ごとに窮していく文公は、それでも生きるために身を引きずるようにして日雇いの仕事を求めるが、弱った身体はいうことをきかない。やがて彼は、路傍に倒れ伏したまま、誰の手も借りられず、ひとり息絶えてしまう。朝日を受けて威勢よく走ってくる汽車の乗客たちが、車窓から、薦をかけられた道ばたの「一物」をちらりと見やる。姓名も原籍も不明のその亡骸は、例のとおり仮埋葬に付された。それが文公の最後だった――「実に人夫が言ったとおり、文公はどうにもこうにもやりきれなくって倒れたのである」。社会の底辺に生きる者が、誰にも顧みられずに迎える救いなき死を、独歩が即物的な筆致で刻みつけた自然主義の名品である。
登場人物
- 文公 病を得て働けなくなった日雇い人夫。頼るあてもなく窮していき、道ばたに倒れて誰にも看取られず死ぬ
- 安めし屋の労働者たち 文公と同じ、その日暮らしの下層労働者。文公の身を気づかうが、彼らもまた貧しい
冒頭部(原文より)
九段坂の最寄にけちなめし屋がある。春の末の夕暮れに一人の男が大儀そうに敷居をまたげた。すでに三人の客がある。まだランプをつけないので薄暗い土間に居並ぶ人影もおぼろである。 先客の三人も今来た一人も、みな土方か立ちんぼうぐらいのごく下等な労働者である。よほど都合のいい日でないと白馬もろくろくは飲めない仲間らしい。
「窮死」国木田独歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
この時赤羽行きの汽車が朝日をまともに車窓に受けて威勢よく走って来た。そして火夫も運転手も乗客も、みな身を乗り出して薦のかけてある一物を見た。 この一物は姓名も原籍も不明というので、例のとおり仮埋葬の処置を受けた。これが文公の最後であった。 実に人夫が言ったとおり、文公はどうにもこうにもやりきれなくって倒れたのである。(完)
「窮死」国木田独歩(青空文庫)
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