号外(国木田独歩)のあらすじ・登場人物
戦争が終わって気の抜けた男爵
- 社会
- 風刺
- 文字数
- 5,328字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
日露戦争の講和(ポーツマス条約)後、冬の初めの東京を舞台にした国木田独歩の短編。銀座の狭い路地にある酒場「正宗ホール」に集まる常連たち――ぼろ洋服の男爵加藤、反戦論者の彫刻家中倉翁、語り手の満谷――の酒席を、ほとんど掛け合いの会話だけで描く。戦争がないと生きている張り合いがないとこぼす加藤は、懐から戦時中の新聞の号外を取り出しては朗読し、自分の像を彫ってくれと中倉翁にせがむ。戦時の高揚が去ったあとの人々の気抜けを、酔客たちの軽口の応酬からすくい上げている。
あらすじ
日露戦争の講和後、冬の初め。銀座の狭い路地にある正宗ホールに、今夜もぼろ洋服の男爵加藤が現れる。仲間から「加と男」と呼ばれる彼は、戦争がないと生きている張り合いがないと嘆くのが近ごろの癖で、反戦論者の彫刻家中倉翁はもう相手にしたがらない。加藤は中倉に自分の像を彫ってくれと頼み、題は自分でつけるという。その題は「号外」。戦争中の号外こそ自分の生命で、号外が出なくなって自分は死んだも同然だというのである。加藤はポケットから古い号外を取り出し、鴨緑江の戦いの前触れや広瀬中佐の最期を伝える記事を朗読して涙ぐみ、日本海海戦の「本日天候晴朗なれども波高し」の公報を読む姿を彫ってほしいとせがむ。中倉翁は、号外を読んで喜ぶ姿なら誰でも同じで平凡だ、号外に縁がなくなってがっかりしているところこそ君らしいと言い返す。語り手の満谷も、戦争中は誰もが国家の大事に喜憂していたのだから、今はだれもが多少は気抜けしていると認める。結局、中倉翁が「君はわれわれの号外だ」と言うと、加藤はがっかりした姿を彫ってもらうことに大満足する。一時間ほど飲んだのち、加藤が卓にもたれて寝てしまったので満谷はホールを出る。戦争中は通りがかりの他人にも声をかけたくなるようだった銀座も、今はもとの他人どうしの往来に戻り、街までががっかりしているように見える。満谷は、戦争ではなく、戦争の時のような心持ちでみんなが暮らす方法はないものかと考えながら歩いた。
登場人物
- 加藤 ぼろ洋服を着た男爵。正宗ホールの常連で、戦争が終わったことを嘆く
- 中倉 四十幾歳の彫刻家。戦争に大反対の老美術家
- 満谷 語り手の「自分」。正宗ホールの飲み仲間
冒頭部(原文より)
ぼろ洋服を着た男爵加藤が、今夜もホールに現われている。彼は多少キじるしだとの評がホールの仲間にあるけれども、おそらくホールの御連中にキ的傾向を持っていないかたはあるまいと思われる。かく言う自分もさよう、同類と信じているのである。 ここに言うホールとは、銀座何丁目の狭い、窮屈な路地にある正宗ホールの事である。
「号外」国木田独歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
銀座は銀座に違いないが、なるほどわが「号外」君も無理はない、市街までがっかりしているようにも見える。三十七年から八年の中ごろまでは、通りがかりの赤の他人にさえ言葉をかけてみたいようであったのが、今ではまたもとの赤の他人どうしの往来になってしまった。 そこで自分は戦争でなく、ほかに何か、戦争の時のような心持ちにみんながなって暮らす方法はないものかしらんと考えた。考えながら歩いた。(完)
「号外」国木田独歩(青空文庫)
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