世間胸算用(井原西鶴)のあらすじ・登場人物
大晦日は一日千金
- 社会
- 風刺
- 古典
- 文字数
- 40,175字
- 読了目安
- 約1時間20分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
- 京都府
- 大阪府
- 奈良県
- 長崎県
この作品について
井原西鶴の浮世草子。1692年(元禄5年)正月、西鶴の最晩年に刊行された。副題は「大晦日は一日千金」。借金の清算に追われる大晦日の一日だけを舞台に、町人たちの暮らしを二十の短い話に描く。掛け取りから逃れる手口、見栄を張った遊びの末に払えなくなる客、貯めた銀に囲まれて年を越す金持ち、何もかも質に入れて年を越す貧家など、同じ夜を迎える人々の貧富と才覚の差が、笑いを交えて語られる。すでに町人物の傑作「日本永代蔵」が金持ちになる方法を説いたのに対し、こちらは金銭に追われる庶民の哀歓に目を向けた作品で、西鶴最晩年の筆の冴えを示すとされる。京・大坂・堺・奈良・長崎・江戸と各地の年の暮れの風物も細かく写し、元禄の暮らしの手触りを知る資料にもなっている。本書は「近代日本文学大系」第3巻(国民図書、1927年)による原文で、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて起こし、収録した。
あらすじ
【巻一】大晦日の物入りを数え上げ、両替屋に預けた銀を大きく超える振手形を掛け取りに渡して年を越す町人(問屋の寛闊女)。質種を頼りに年を越す長屋の貧しい人々と、衣を質に入れて米を乞えなくなった鉢開き坊主(長刀はむかしの鞘)。伊勢海老が買えない家と、伊勢の御師の祝儀状を一通一文で書いて暮らす筆耕(伊勢海老は春の栬)。煤払いの笹竹まで使い尽くす細かな男と、隠居の母が溜めた銀をめぐる鼠の騒ぎが、鼠遣いの芸で決着する(鼠の文づかひ)。【巻二】大黒講に集まる金持ちの老人たちと、銀の貸し方を教える男(銀一匁の講中)。掛けの払いを逃れようとする男と大晦日の遊びの顛末(訛言も只は聞かぬ宿)。相続の分け方と持参金の胸算用を説き、兄は譲られた五百貫目を四年で失って山椒の粉売りに落ちる(尤も始末の意見)。夫婦喧嘩を装って掛け取りを追い返す手口で、「大宮通の喧嘩屋」と呼ばれた男(門柱も皆かりの世)。【巻三】顔見世の桟敷で見栄を張った客たちが、大晦日に勘定が払えず行方をくらます(都の顔見世芝居)。掛け取りの心得と、口巧者な掛け取りが五百匁を取って帰る話(年の内の餅花は詠め)。小判の山の夢を見た貧しい夫婦に年の暮れが訪れ、夫は涙のうちに女房を連れ戻す(小判は寐姿の夢)。出雲に集う神々の年神が堺の家々を見て回り、元日を二日に祝う貧家に驚く(神さへ御目違ひ)。【巻四】祇園の悪口の神事と、大晦日の七つ過ぎには受け取らない大家の銀(闇の夜の悪口)。鮹の足を一本抜いて売る奈良通いの肴屋と、奈良の晒布商の銀を狙った素浪人の追剥(奈良の庭竈)。伏見の夜船で、借金取りを避けて互いの家の留守番をする「入替り」の手口を語る男(亭主の入替り)。長崎の年越しの風習と、珍しい見世物を求めて長崎に下った男(長崎の柱餅)。【巻五】大晦日の夜市で、古道具の中から思いがけない小判が出る(つまりての夜市)。手習いの師匠の言葉と、のちの子どもたちの身の振り方(才覚のぢくすだれ)。節分と大晦日が重なった夜、道場に集まらない門徒とあわただしい世間(平太郎殿)。江戸の年の暮れの賑わいで巻を閉じる(長久の江戸棚)。
登場人物
- 八助 奈良通いの肴屋。鮹の足を七本にして売る
- 藤兵衛 鼠遣い。鼠の芸で隠居と母屋の言い争いを決着させる
- 忠六 口巧者な掛け取り。五百匁を受け取って帰る
冒頭部(原文より)
世の定めとて大晦日は闇なること、天の岩戸の神代以来知れたることなるに、人皆常に渡世を油断して、節季を仕舞ひ兼ね迷惑するは、面々覚悟悪しき故なり。
「世間胸算用」井原西鶴(青空文庫)
末尾部(原文より)
町並の門松、是れぞ千歳山の山口、なほ常磐橋の朝日影、豊かに静かに万民の身に照り添ひ、曇らぬ春にあへり。
「世間胸算用」井原西鶴(青空文庫)
名文
世の定めとて大晦日は闇なること、天の岩戸の神代以来知れたることなるに、人皆常に渡世を油断して、節季を仕舞ひ兼ね迷惑するは、面々覚悟悪しき故なり。
借金取りが走り回る大晦日の「一日千金」を描く連作の書き出し。節季を越せないのは覚悟が悪いからだと、町人の暮らしを見据える。
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:「近代日本文学大系」第3巻 井原西鶴集(国民図書、1927年)所収の「世間胸算用」。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて起こし、本文だけを収録した(各巻の目録・章題の脇の副題・ルビ・挿絵・巻末の刊記は省いた)。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。