好色五人女(井原西鶴)のあらすじ・登場人物
清十郎殺さばお夏も殺せ
- 恋愛
- 古典
- 文字数
- 38,432字
- 読了目安
- 約1時間17分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
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- 鹿児島県
この作品について
井原西鶴の浮世草子。1686年(貞享3年)2月、大坂で刊行された。世間を騒がせた恋の事件や、はやり歌に歌われた男女を題材にした五つの物語を、一巻五章ずつの全五巻に収める。姫路の商家の娘お夏と手代の清十郎、大坂天満の樽屋の女房おせん、京の大経師の妻おさんと手代の茂右衛門、江戸本郷の八百屋の娘お七と吉三郎、薩摩の男色ひとすじの源五兵衛と彼を慕う娘おまん。家や世間のしきたりに縛られた町人の女たちが、みずから恋に踏み出していく姿を、軽妙な語り口と冷静な観察で描いた。はじめの四話は処刑や自害、出家に終わる悲劇だが、最後の一話だけは思いがけない大団円を迎える。のちに浄瑠璃や歌舞伎で「お夏清十郎」「八百屋お七」などとして繰り返し取り上げられた。本書は「近代日本文学大系」第3巻(国民図書、1927年)による原文で、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて起こし、収録した。底本の伏字(○)はそのまま残している。
あらすじ
播磨の室津の酒屋の息子清十郎は、遊女皆川との放蕩がたたって勘当され、姫路の但馬屋九右衛門の店で手代として働きはじめる。主人の妹お夏は清十郎に恋い焦がれ、花見の日、獅子舞に人目を引きつけているあいだに、幕の中で二人は結ばれる。飾磨の港から船で上方へ駆け落ちするが、飛脚が状箱を置き忘れたために船が引き返し、二人は連れ戻される。清十郎は店の七百両を盗んだ疑いをかけられて二十五歳で処刑され、金はのちに別の長持から見つかる。子どもたちの「清十郎殺さばお夏も殺せ」という歌で清十郎の死を知ったお夏は、狂乱のすえに十六歳で尼となる。大坂天満の樽屋は、町家に仕える腰元のおせんに恋をし、手引きを請け負った老女の計らいで、伊勢参りにかこつけた旅の道中で結ばれて夫婦となる。ある法事の手伝いの日、麹屋長左衛門が棚から落とした鉢でおせんの髪がほどけ、長左衛門の女房に仲を疑われる。おせんは腹いせに本当に長左衛門と通じようとするが、その夜、目を覚ました夫に見つかり、鉋で胸を突いて自害する。京の大経師の妻おさんは、手代の茂右衛門に思いを寄せる腰元りんの代わりに寝床で待ち、茂右衛門をからかうつもりが寝入ってしまい、思いがけず茂右衛門と契る。覚悟を決めた二人は、石山寺の開帳に出かけた折に、琵琶湖に身を投げたと見せかけて丹波・丹後へ逃れるが、丹後から来た栗売りの話から居場所が知れ、捕らえられて粟田口で処刑される。江戸本郷の八百屋八兵衛の娘お七は、火事で避難した駒込の吉祥寺で吉三郎と恋仲になる。家に戻ったのち、雪の夜に里の子に身をやつして訪ねてきた吉三郎と一夜を明かすが、もう一度会いたいばかりに、火事になればまた寺へ行けると思い立って火をつける。お七は捕らえられ、十七の春に鈴の森で火あぶりとなる。病に伏していた吉三郎は百か日にそれを知り、自害しようとして止められ、出家する。薩摩の鹿児島の源五兵衛は男色ひとすじの色好みで、愛した若衆に死なれて出家し、旅の途中で出会った美しい若衆にもまた先立たれる。源五兵衛に恋い焦がれていた琉球屋の娘おまんは、若衆の姿に身をやつして庵を訪ね、女であることを明かして源五兵衛を還俗させる。二人は食うにも困る暮らしに落ちるが、やがて娘を探し当てたおまんの両親に迎えられて家の財産をそっくり譲られ、使い切れないほどの金銀を前に途方に暮れる。
登場人物
- お夏 姫路の但馬屋九右衛門の妹。十六歳で手代の清十郎に恋をする
- 清十郎 室津の酒屋の息子。遊女に入れあげて勘当され、但馬屋の手代となる
- おせん 大坂天満の町家に仕える腰元。のちに樽屋の女房となる
- 樽屋 天満の樽職人。おせんに恋い焦がれる
- おさん 京の大経師の妻。美しさで評判の女
- 茂右衛門 大経師の家の手代
- お七 江戸本郷の八百屋八兵衛の娘。十六歳
- 吉三郎 駒込の吉祥寺に身を寄せる浪人の子、小野川吉三郎
- 源五兵衛 薩摩の鹿児島の男。男色ひとすじの色好み
- おまん 鹿児島の琉球屋の娘。源五兵衛を慕い、若衆の姿で訪ねる
冒頭部(原文より)
春の海しづかに、宝船の浪枕、室津に賑へる大湊なり。こゝに酒造れる商人に和泉清左衛門と云ふあり、家栄えて万に不足なし。しかも男子に清十郎とて、自然と生まれつきて昔男を写絵にも増り、其のさまうるはしく、女の好きぬる風俗、十四の秋より色道に身をなし、此の津の遊女八十七人ありしを、何れかあはざるはなし。誓紙千束につもり、爪は手箱に余り、切らせし黒髪は大綱になはせける、これには恪気深き女も繫がるべし。毎日の届け文一つの山をなし、紋付の送り小袖その儘に重ね捨て、三途川の姥もこれを見たらば慾を離れ、高麗橋の古手屋も値打は成るまじ。
「好色五人女」井原西鶴(青空文庫)
末尾部(原文より)
人魚の塩引、瑪瑙の手桶、かんたんの米かち杵、浦島が庖了箱、弁天の前巾著、福禄寿の剃刀、多聞天の枕槍、大黒殿の千石どほし、夷殿の小遣帳、覚え難し。世に有る程の万宝ない物はなし。源五兵衛嬉し悲しく、是れを思ふに江戸京大坂の太夫残らず請けても、芝居銀本して捨てても、我が一代に皆になし難し。何とぞ費ひ減らす分別出でず、是れは何とした物であらう。
「好色五人女」井原西鶴(青空文庫)
名文
春の海しづかに、宝船の浪枕、室津に賑へる大湊なり。
西鶴『好色五人女』巻一「姿姫路清十郎物語」の書き出し。宝船の浪枕と結ぶ、穏やかで華やかな室津の港の描写から恋物語が始まる。
名はお七と言へり。年も十六、花は上野の盛り、月は隅田川の影清く、かかる美女のあるべきものか。
巻四「恋草からげし八百屋物語」で、八百屋の娘お七が登場する一節。上野の花や隅田川の月を引いて、十六歳の美しさをたたえる。
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:「近代日本文学大系」第3巻 井原西鶴集(国民図書、1927年)所収の「好色五人女」。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて起こし、本文だけを収録した(各巻の目録・章題の脇の副題・ルビ・挿絵・巻末の刊記は省いた。底本の伏字はそのまま残した)。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。