心中刃は氷の朔日(近松門左衛門)のあらすじ・登場人物
鉄の誓文が、二人を追いつめる
- 恋愛
- 古典
- 文字数
- 18,881字
- 読了目安
- 約38分
- 表記
- 新字旧仮名
- 舞台
- 大阪府
この作品について
近松門左衛門の人形浄瑠璃。宝永6年(1709)に大坂・竹本座で初演されたとされる世話物で、上・中・下の三巻から成る。題の「氷の朔日」は、昔、宮中で氷室の氷を群臣に賜った旧暦6月1日のことで、この日の出来事として描かれる。大坂の鍛冶屋・大文字屋利右衞門に仕える職人の平兵衞は、蜆川新地の遊女・平野屋の小かんと深い仲になっている。小かんは播磨の鷹匠頭の娘で、父が浪人したため大坂の伯母夫婦を頼り、身を売って勤めに出ていた。そこへ國許の乳兄弟・和田傳内が迎えに来て、小かんは身請け金が四兩二分足りないまま、國へ連れ戻されそうになる。平兵衞は田舎商人の注文を内々に請けて銀を工面しようとするが、親方に見つかって叱られる。親方は、茶屋通いをやめると誓うなら金を出してやろうと言い、誓文の証に真っ赤に焼けた鉄を握れと迫る。平兵衞は握れず、店を追い出される。追い詰められた二人は、小かんが偽の起請文を破って傳内を欺き、屋根伝いに逃れて、夜の曾根崎から北野の藍畠へ向かい、剃刀で心中する。鍛冶屋の仕事を織り込んだ文章と、焼けた鉄を握る誓文の場面が特色。本書は「近代日本文学大系」第6巻(国民図書、1927年)による原文で、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて起こし、収録した。
あらすじ
【上之巻】大坂の鍛冶屋・大文字屋利右衞門の店。親方は弟子たちに、雨が降りそうだから傘を持って女房と娘のおつまを迎えに行けと言いつける。職人の平兵衞は店を任される古参で、おつまの不動参りの供をしている。そこへ北野の鐵槌煎餅屋・三郞兵衞の女房が平兵衞を訪ねて来る。女房は、蜆川新地・平野屋の小かんが自分の姪だと打ち明ける。小かんは播磨の鷹匠頭の娘で、父が殿様のお鷹を逃がして浪人したため、大坂の伯母夫婦を頼って来た。夫婦の窮状を見て、小かんは三年を十二兩で身を売った。ところが國許の兄が召し返されて奉公に戻り、乳兄弟が迎えに来て、安治川に宿をとっているという。身請けに足りない四兩二分を、伯母は平兵衞に頼み込む。平兵衞は、請け取る筈の三兩余りを当てにして引き受ける。そこへ、大和から来た田舎商人二人が、誂え物の代金を払いに来る。平兵衞が代金を請け取ると、親方が奥から出て来て、在所を隠す客の仕事は請けられないと銀を突き返させる。平兵衞は泣いて恨むが、親方は涙を止めて、茶屋通いをやめると誓うなら金を出してやろうと言う。平兵衞は思い切ると誓うが、親方は証拠に真っ赤に焼けた鉄を握れと迫る。握れずに後ずさりする平兵衞を、親方は店から叩き出す。【中之巻】六月朔日、蜆川新地は紋日で賑わう。小かんは、愛染堂へ参ろうと提灯を誂え、その出来を待っている。平野屋の下女が来て、鍛冶屋の平兵衞という間夫が昼から近くに来ているが、事情があって会わせられないと、さがに耳打ちする。小かんは平兵衞に会わせてほしいと頼み、梅田橋のたもとで平兵衞に会って、死ぬ覚悟を打ち明ける。夜、田舎の侍が小かんを訪ねて来る。国許の乳兄弟・和田傳内で、伯母と共に、母の文を示して小かんを諭す。小かんは平兵衞を戸棚に隠し、二世を誓った起請文を破いてみせて、國へ帰ると偽る。傳内と伯母が引き取ると、小かんは平兵衞と屋根伝いに逃げ出す。【下之巻】二人は夜の道を曾根崎から北野へと踏み迷う。小かんは、伯母の近くで死んで後の世は親に会おうと言い、平兵衞は、小かんの母の文を口に含ませる。二人は藍畠で、平兵衞が剃刀で小かんを刺し、続いて自分の喉を突いて死ぬ。
登場人物
- 平兵衞 大坂の鍛冶屋・大文字屋に仕える職人。小かんと深い仲になる
- 小かん 蜆川新地・平野屋の遊女。本名はおつや。播磨の鷹匠頭の娘
- 利右衞門 鍛冶屋・大文字屋の親方
- 伯母 北野の煎餅屋・三郞兵衞の女房。小かんの伯母
- 和田傳内 小かんの乳兄弟。國許から迎えに来る
冒頭部(原文より)
さりとても恋は曲者みな人の、地金をへらす焼釘は、敲き直いて意見して、焼き直いても悪性の、酒と色との鎹や。
「心中刃は氷の朔日」近松門左衛門(青空文庫)
末尾部(原文より)
その剃刀の返す刃を、我が喉笛につく息も、いる息もはや絶え〱の、おなじ枕の死出の山、しでの田長かほとゝぎす、聞きにきたのの藍畠、藍に染めたる魂魄と、廻向に色をぞあげにける。
「心中刃は氷の朔日」近松門左衛門(青空文庫)
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:「近代日本文学大系」第6巻 近松門左衛門集 上(国民図書、1927年)。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて起こし、本文だけを収録した(ルビ・註の印・曲節の指定・下之巻の道行の副題・解題・註釈は省いた)。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。