曾根崎心中(近松門左衛門)のあらすじ・登場人物
恋の手本となりにけり
- 恋愛
- 古典
- 文字数
- 10,416字
- 読了目安
- 約21分
- 表記
- 新字旧仮名
- 舞台
- 大阪府
この作品について
近松門左衛門の人形浄瑠璃。1703年(元禄16年)4月、大坂・曾根崎の天神の森で、醤油屋の手代・徳兵衛と天満屋の遊女・お初が心中した事件を、ひと月ほどで劇に仕立て、同年5月に竹本座で初演した。義理に縛られた町人の男女の恋と死を描き、それまで武将や英雄の物語が中心だった浄瑠璃に、同時代の庶民を主人公とする「世話物」という分野を切り開いた記念碑的な作品で、大当たりをとった竹本座はこれで借財を返したと伝えられる。大坂の観音霊場を巡るお初の姿で始まり、友人に金をだまし取られて面目を失った徳兵衛とお初が、夜更けの曾根崎の森へ死にに行く道行で終わる。「此の世の名残夜も名残」で始まる道行の詞章は、荻生徂徠が称えたと伝えられる名文。本書は「近代日本文学大系」第6巻(国民図書、1927年)による原文で、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて起こし、収録した。
あらすじ
初夏の大坂。天満屋の遊女お初は、田舎の客に連れられて、大坂の三十三か所の観音霊場を巡る。生玉神社の茶屋で休んでいると、得意先回りをしていた恋人の徳兵衛が通りかかる。醤油屋・平野屋の手代である徳兵衛は、主人でもある叔父から妻の姪との縁談を押しつけられ、継母が持参金の二貫目をすでに受け取っていた。徳兵衛は縁談を断って継母から金を取り戻したが、怒った叔父は四月七日までに金を返せ、返したら大坂から追い出すと言い渡す。ところが徳兵衛はその金を、親友の油屋九平次に三日の約束で貸していた。そこへ九平次が現れ、返済を求める徳兵衛に、借りた覚えはない、証文の判は前に落としたもので、徳兵衛が拾って偽の証文を作ったのだと言い張り、仲間と徳兵衛をさんざんに打ちのめす。面目を失った徳兵衛は、身の潔白は三日のうちに大坂中に示してみせると言い残して去る。その夜、徳兵衛は天満屋へ忍んで来る。お初は打掛の裾に隠して彼を縁の下に入れる。やって来た九平次が徳兵衛の悪口を言いふらすなか、お初は独り言にかこつけて、縁の下の徳兵衛に足で死ぬ覚悟を問う。徳兵衛はお初の足首を自分の喉笛に当てて、自害の覚悟を伝える。夜更け、二人は店の者の目を盗んで天満屋を抜け出し、「此の世の名残夜も名残」と曾根崎の森へ向かう。二人は連理の木に体を結びつけ、徳兵衛がお初を刺し、自らも剃刀で喉を突いて命を絶つ。二人は恋の手本として語り継がれることになる。
登場人物
- 徳兵衛 醤油屋・平野屋の手代。主人は叔父。二十五歳
- お初 天満屋の遊女。徳兵衛と深く思い合う。十九歳
- 九平次 油屋。徳兵衛の親友を装い、金をだまし取る
- 平野屋の主人 徳兵衛の叔父で主人。妻の姪との縁談を進める
冒頭部(原文より)
実にや安楽世界より、今この娑婆に示現して、我等が為の観世音、仰ぐも高し高き屋に、登りて民の賑ひを、契りおきてし難波津や、三つづゝ十と三津の里、札所々々の霊地霊仏、巡れば罪もなつの雲、熱くろしとて駕籠をはや、おりはの乞目三六の、十八九なる顔佳花、今咲き出しの初花に、笠は被ずとも召さずとも、照る日の神も男神、除けて日負けはよもあらじ。
「曾根崎心中」近松門左衛門(青空文庫)
末尾部(原文より)
「我とても遅れうか、息は一度に引き取らん。」と、剃刀取つて喉に突き立て、柄もをれよ刃も砕けと、ゑぐりくり〳〵目もくるめき、苦しむ息も暁の、知死期につれて絶え果てたり。誰が告ぐるとは曽根崎の、森の下風音に聞え取り伝へ、貴賤羣集の廻向の種、未来成仏疑ひなき、恋の手本となりにけり。
「曾根崎心中」近松門左衛門(青空文庫)
名文
此の世の名残夜も名残、死にに行く身を譬ふれば、あだしが原の道の霜、一足づゝに消えて行く、夢の夢こそ哀れなれ。
近松門左衛門の世話浄瑠璃、道行の名調子。死へ向かう二人を霜が消えゆく道にたとえる七五調は、日本語の名文の代表とされる。
あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞きをさめ、寂滅為楽と響くなり。
道行の続き。暁の鐘を数えるうち、七つが六つ鳴って残る一つが今生で聞く最後の鐘になる、と時間の尽きる感覚を響かせる。
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:「近代日本文学大系」第6巻 近松門左衛門集 上(国民図書、1927年)。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて起こし、本文だけを収録した(ルビ・註の印・曲節の指定・解題・註釈は省いた)。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。